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社会・文化

至純の日本酒は「糸魚川」にあり

世界が称賛する「過疎地の蔵人」

2017年11月号

 十月初旬、新潟・糸魚川の山間に広がる根知谷の稲刈りは、終わりかけていた。そよ風が心地よく肌をなでる。日差しは強いが、澄んだ空気はひんやりとしている。夜は冷え込みそうだ。いい米のとれる地域は寒暖差が激しい。厳しい自然が米にうまみと甘みをもたらす。切り株がところどころに広がる風景は、どこか物悲しい。
 糸魚川は新潟県の西端に位置する。日本海をのぞむ北陸新幹線の駅から十キロほど南に下ったところに、箱庭のような根知の集落が広がる。東にそびえるのは標高約二千メートルの雨飾山。これが雨雲をせき止め、冬は三メートルの雪が積もり、春まで解けない。雪解け水は地下を伏流水となって流れ、水田を潤わせる。清冽な水が用水路を流れていた。
 渡辺酒造店が、この地で自ら栽培する米で造る「Nechi」ブランドの名は、国内よりむしろ、英米の日本酒専門家に知られている。二〇一〇年、世界最大のワイン品評会「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」(IWC)の日本酒部門で、「Nechi 2008」が、最優秀賞「チャンピオン・サケ」に選ばれた。それを受けて、世界最大級のドキュメンタリーチャンネル「ディスカ・・・