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社会・文化

拉致帰国者の知られざる現実

佐渡で二度見捨てられる「曽我一家」

2017年10月号

 佐渡島の国道に面した木造二階建ての民家から、その女性は勤め先の養護老人ホームに軽自動車で通う。北朝鮮による拉致被害者の曽我ひとみさん(五十八歳)。一九七八年八月十二日の夕刻、当時一九歳だった彼女は母親と買い物をした後、実家の近くで三人組の男に襲われ、そばを流れる国府川から小舟で日本海へ、そして大きな船に移されて彼の地へ拐引された。三十九年の歳月を経た今も、人生の歯車を暗転させられた忌まわしき現場を行き来する皮肉。
 生家が二階建てに改築されたことを除けば、田畑の広がる故郷の風景も、国府川の清流もあの日と大きく変わらない。独裁国家での辛苦に耐え抜いた曽我さんは、この地で家族と小さな幸せを嚙みしめていると思われがちだが、島での見聞から浮かび上がるのは嫉妬や怨嗟の視線にさいなまれる現実だ。曽我一家の知られざる物語を紡ぎだそう。
「近所の人たちや同級生、全国からの温かい励ましの中で生きてきました。同級生は私がくじけそうになった時『一人じゃないよ。一緒だよ。お母さんが帰ってくるまで頑張ろう』と励ましてくれました」。ひとみさんは自身を含む拉致被害者五人が帰国してから十五年を迎・・・