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社会・文化

終末期「緩和ケア医療」の酷い実情

「安らかな死」を阻む厚労省の大罪

2017年10月号

 死ぬなら楽に死ぬ。苦しむなら治る。どっちかにしてもらいたい。苦しんだ上に死ぬなんて理屈に合わぬ―。映画「お葬式」でデビューし名作を生み続けた故・伊丹十三監督の至言は、治癒不能と診断されたがん患者の心奥に響く。そんな死に怯えながら、命の火をともす人を支える治療が緩和ケアだ。英国の医師シシリー・ソンダースが一九六七年、ロンドンにホスピスを開設したのが起源で、身体的な痛みだけでなく社会的、精神的、スピリチュアルな苦痛を和らげることが不可欠と提唱した。日本でも導入されているものの、有名無実化して機能不全に陥っている。旗振り役を演じる厚生労働省が緩和ケアに高いハードルを設けているからだ。収益で割に合わない病院では、お荷物扱い。「安らかな死」を阻む厚労省と病院の酷薄ぶりを追跡する。
 緩和ケアは世界中に普及している。一九八六年には世界保健機関(WHO)が「がん性疼痛緩和ガイドライン」を発表し、鎮痛剤モルヒネの経口投与を推奨した。モルヒネは身体的苦痛を和らげる緩和ケアの柱だ。その後、終末期のがん患者は痛みの他にも、不安や不眠など多くの問題を抱えていることが明らかとなり、緩和ケアが確立した・・・