三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

日本の科学アラカルト86

ノーベル賞候補にもなった「塗るだけ太陽電池」

2017年10月号

 今年も十月二日から「ノーベル・ウィーク」が始まる。同日の生理学・医学賞を皮切りに、物理学、化学、平和、経済学の各賞の受賞者が発表されていく。日本では今年も、村上春樹氏が文学賞を獲るか否かが注目されているが、他賞にも日本人有力候補者はいる。中でも今年特に注目されているのは化学賞だ。
 ノーベル賞を受賞するためには顕著な科学的業績を残していることだけでなく、「運」も必要となる。選考するスウェーデン王立科学アカデミーは、業績を精査することはもちろん、世界的な潮流を見極める。つまり、「どの研究に賞を与えることがインパクトを生むか」である。結果として、ある分野で極めて高い評価を受ける業績を残し、「ノーベル賞候補者」といわれながら長年受賞できない研究者がいる一方で、iPS細胞の山中伸弥氏のようにあっさりと受賞する候補者もいる。
 長年、ノーベル賞候補といわれてきた日本人研究者の一人が、旭化成フェローの吉野彰氏だ。一九八三年にリチウムイオン電池の原型を作ったことで世界的に知られた化学者だ。成果の上では文句なしとみられているが、リチウムイオン電池が既に広範に普及したために、「受賞・・・