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経済

みずほが悩む「ヒューリック」の狼藉

佐藤社長も手を焼く「旧富士の悪縁」

2017年9月号公開

「買って二カ月で転売、それも外資系の不動産ファンドに売るなんて。まるでリーマンショック前にはびこった新興不動産並みだ」。傘下に大丸・松坂屋を持つ百貨店大手、J.フロント リテイリング幹部の一人が呆れるやら憤るやら。
 旧松坂屋銀座店の跡地など、東京・銀座六丁目十番街区と同十一番街区の約一・四ヘクタール一帯を再開発して今年四月二十日にグランドオープンした域内最大級の複合施設「GINZA SIX」。二百四十一店舗がテナントとして入居する商業施設とオフィス、文化・公共施設などから成り、地上十三階地下六階建て。延床面積は一四・八万平方メートル超にもおよぶ。その「GINZA SIX」の区分所有権を、不動産準大手のヒューリックが取得したのは今年四月二十八日のことだった。
 同社が購入したのはオフィス階(七~十三階の一部)八階の全フロア約五千四百十七平方メートル。取引相手はJ.フロントや森ビルなどとともに施設の開発・運営主体に名を連ねる住友商事で、売却額は約百二十億円とされている。が、ヒューリックはそれをわずか二カ月後の六月末、今度は米グリーンオーク・リアル・エステートに二百億円で転売。まさに「濡れ手で粟」ともいえる形で八十億円ものサヤ抜きをやってのけたのだ。

露骨な拝金主義

 これには元オーナーの住商関係者も驚きを隠さない。「ヒューリック側は施設の着工当初から物件取得に強い意欲を示しており、二年も前に購入の予約を取り付けるほどのご執心ぶりだった」からだ。実際、ヒューリックが区分所有権取得時に開示したニュースリリースには「来街者の利便性に長けた非常に希少性が高い物件。テナントニーズは底堅い」といった文言が躍り、再売却をにじませるような表現は微塵もない。「当然、テナントを引っ張ってきて自社保有していくものと思っていた」という。
 まして転売先は「抜け目のなさでは定評がある」(金融筋)とされる外資系ファンドだ。長期保有などするハズもなく、「結局はテナント不在などお構いなしにサヤ抜き狙いで再び転売に回される」(同前)のはほぼ確実。このままでは下手をすると「物件としては出来立てほやほやのピカピカでも、ビルとしてのブランド価値はまったく台無し」(森ビル関係者)ともなりかねない。
 それにしてもヒューリックは何故、地権者らの怒りと顰蹙を買ってまで「GINZA SIX」の区分所有権転売に踏み切ったのか。業界関係者のなかにはそこに同社の陥った拝金主義的、利益至上主義的体質をみる向きが少なくない。
「上場来最高益を連続更新中」「毎期増配中」―ヒューリックがここ最近、投資家らに訴求している最大のセールストークがこれだ。確かにここ五年間の実績をみても二〇一二年十二月期に二百億円だった連結経常利益は二百五十九億円→三百四十三億円→四百二十五億円と拡大し、一六年十二月期には五百億円の大台を突破して前期比約二一%増の五百十四億円に。年二・五円だった配当は六・五円→十・五円→十五・五円→十七円(記念配含む)と上昇の一途をたどっている。
 今十二月期の利益計画も無論、増益だ。経常利益は前期比約一一%増の五百七十億円。配当も増配ペースこそ落とすものの一円上積み、年十八円に引き上げる。達成されれば利益水準は六年間で三倍近くにも跳ね上がる計算だ。
 だが、こうした急ピッチの拡大を主力の不動産賃貸だけで成し遂げられるハズもない。軌道に乗れば安定的に利益を生む半面、先行費用がかさみ、投資回収に一定の時間がかかるビジネスモデルだからだ。そのため血道を上げてきたのが、手っ取り早く稼げる不動産売買だ。一六年十二月期はこれで総売上高の過半に当たる年商一千百十一億円(前期比一・四一倍)を計上。前期比一・五二倍となる百九十四億円の部門営業益をたたき出している。
 その業績に、このところ影を落としはじめたのが不動産価格の上昇だ。市況が高騰すれば当然、物件仕入れのコストも上がり、転売時の利ザヤも薄くなる。金看板ともいえる「上場来最高益更新中」に赤信号が灯りかねない情勢になってきたわけだ。
 実際、七月二十八日に公表されたヒューリックの今十二月期上期(一~六月)決算をみると不動産売買の部門益は百二十七億円、連結営業益は三百二十一億円。「GINZA SIX」を巡る取引で上げた八十億円がなければ単純計算で部門益は四十七億円、営業利益は二百四十一億円にとどまり、それぞれ五四%、七%の減益だ。そしてその結果は通期計画にも跳ね返り、更新記録が途絶えていた可能性も否めなかったことになる。
 何のことはない。金看板を守り抜くため「一も二もなく目先の利益に飛びついた」(事情通)といったところか。

連綿と続く割高賃貸料の“慣行”

 そしてそんなヒューリックに今、何かと手を焼いているとされるのがみずほフィナンシャルグループ(FG)だ。ヒューリックの前身は旧富士銀行の店舗不動産の管理から出発した芙蓉グループ傘下の日本橋興業だ。しかしバブル崩壊後の一九九六年から九九年にかけ、苦境に陥った旧富士の要請を受ける形で銀行から九十五物件を相次いで購入。これを賃貸することで業容を膨らませてきた。一時は旧富士が抱え込んだ不良債権の“飛ばし先”として利用されたともいわれている。
 いわば旧富士からすれば一蓮托生ともいえる間柄。それだけに旧富士としてもその収益基盤を下支えしていく必要があったのだろう。実はかなり以前から、旧富士はヒューリックに対し、周辺相場に比べて割高な賃借料を払ってきたとされている。ところが―事情通によると、こうした“慣行”が旧第一勧業銀行、旧日本興業銀行と経営統合してみずほ銀行(BK)として生まれ変わった今なお、連綿として続けられているのだという。
 無論、みずほFG側はこれを是正しようと、せめて世間相場並みに賃料を引き下げるよう幾度となく申し入れてきたようだ。しかしヒューリック側はけんもほろろ。今年に入ってからは佐藤康博社長自らが同社に足を運び、旧富士出身で最高実力者とされる西浦三郎会長と直談判に及んだものの、「軽く一蹴されてしまった」(BK幹部)らしい。
「『そんなに家賃が高いと思うのなら出ていけばいい』と開き直られたあげく、『わが社はみずほグループではない』とまで言い渡されたとか。バンカーだった西浦さんなら銀行の店舗がそう簡単に転居できないことくらい百も承知のハズ。それに確かに直接出資は少ないものの、ウチからの融資が(物件取得など)事業拡大の起爆剤になっていることくらい分かっているはずなのに」。みずほFG関係者の一人はこう悔しがるが、ヒューリックの“暴走”は止まりそうにない。
 みずほのヒューリック本体への融資額は昨年十二月末時点で二千二百三十三億円。同社の借入金残高の三五%を超える。BKの一部からは「少しばかり蛇口を締めてやれ」といった声も飛んでいるらしい。


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