をんな千一夜 第6話
樋口一葉 「侍の娘」の負けじ魂
石井妙子
2017年9月号
フリーランスの物書きなどをしていると、「それで食べていけるのですか」と聞かれることがある。
「ご趣味ですか、それとも仕事ですか」と問われることもあり、言葉に詰まる。そうとも言えるし、そうとも言えないからで、なんとも説明が難しい。なぜ、物など書いているのか。自分でも、よくわからずにいる。
では、この人の場合は、どうだったのか。今では五千円札でおなじみとなった樋口一葉。明治五年に生まれ、わずか二十四歳でこの世を去った閨秀作家である。
一葉といえば貧しさゆえに早世した人というイメージが今日、定着しているが、物を書こうと志した瞬間から、その早すぎる死は運命づけられていたように思う。
一葉は、なかなかに頑固、プライドも高く、胸に負けじ魂を抱えて生きた人だった。こうした性格は父・則義によって植え付けられたものと考えられる。なぜなら父は一葉に、「侍の娘」であると言い聞かせ、そのように少女を育てあげたからである。
ところが、だ。物悲しいことに樋口家は、実は代々続いた本物の武家、というわけではなかった。
父も母も大菩薩峠を・・・