三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

をんな千一夜5

大田垣蓮月 大和心を志士に授けた尼僧
石井妙子

2017年8月号

まだ梅雨の明けぬうちから猛暑日がつづく。身も心もぐったりと疲れ切ってしまう季節。お中元にかえて、今月は心映えすぐれた涼やかな美女の生涯をお届けしたい。
 彼女の生涯は半ば伝説に彩られているものの、確かに実在した人物である。写真こそ残されてはいないが自作の急須や茶飲み、水茎のあとも麗しい和歌を書きつけた短冊などは、今でも高値で取引される。
 美女の名は大田垣蓮月。寛政三(一七九一)年京都に生まれ明治八年、八十五歳の生涯を閉じた女流歌人である。
 蓮月の実父は伊賀上野の城代家老、母は京都・三本木の芸妓といわれるが、実父母との縁は薄く、生後十日で知恩院に勤仕する大田垣光古に引き取られている。
 この養父は武家の出であり、学問に秀で、教養もあり、儒学、国学から和歌、囲碁、武芸までを幼い娘に教え込み、さらに蓮月が八歳になると丹波亀山城に奥勤めの女中として奉公させた。こうした養父の教育方針が、後に蓮月を蓮月たらしめていく。
 お城勤めの後、蓮月は京都に戻り養父が定めた養子と結婚。長男、長女、次女を得るが、子どもたちは次々と病で亡くなり、それもあって・・・