本に遇う 連載212
夜霧のカサブランカ
河谷史夫
2017年8月号
「カサブランカ」を観ませんかとの誘いを受けて出掛けた。上映会場が読売新聞東京本社内のホールとある。天下の政府御用新聞社の牙城を覗く興味もあった。
久方振りに会ったハンフリー・ボガートもイングリッド・バーグマンも、相変わらず魅力的で、共演がこれ一本きりだったとは、映画評論家の山田宏一が言っていたが、不思議なことである。
ナチス・ドイツがそこまで迫って来ているパリで、二人は恋に落ちた。彼が彼女に杯を上げる。
「君の瞳に乾杯!」
ちなみにボガートはこのセリフを四回、口にする。
一緒に脱出する約束で待ち合わせた駅に彼女は来ない。土砂降りの雨のなか、ぎりぎりまで待って列車に乗った彼は、マルセイユを経て仏領モロッコのカサブランカに来て、今は酒場兼賭博場を営む。独身者で、女とはつねに一夜かぎりと決めているようだ。
「ゆうべどこにいたの?」
「そんな昔のことは覚えちゃいない」
「今夜会ってくれる?」
「そんな先のことはわからない」
どことなくニヒルで、他人との関わりを避けたがり、それでいて助け・・・
久方振りに会ったハンフリー・ボガートもイングリッド・バーグマンも、相変わらず魅力的で、共演がこれ一本きりだったとは、映画評論家の山田宏一が言っていたが、不思議なことである。
ナチス・ドイツがそこまで迫って来ているパリで、二人は恋に落ちた。彼が彼女に杯を上げる。
「君の瞳に乾杯!」
ちなみにボガートはこのセリフを四回、口にする。
一緒に脱出する約束で待ち合わせた駅に彼女は来ない。土砂降りの雨のなか、ぎりぎりまで待って列車に乗った彼は、マルセイユを経て仏領モロッコのカサブランカに来て、今は酒場兼賭博場を営む。独身者で、女とはつねに一夜かぎりと決めているようだ。
「ゆうべどこにいたの?」
「そんな昔のことは覚えちゃいない」
「今夜会ってくれる?」
「そんな先のことはわからない」
どことなくニヒルで、他人との関わりを避けたがり、それでいて助け・・・