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連載

美食文学逍遥8

時ならざれば食はず
福田育弘

2017年8月号

 日本の飲食は季節感を大事にする。夏になれば鮎、秋には秋刀魚、冬は河豚、春は鰆といった連想は、いまも多くの日本人に共有されている。秋刀魚や鰆は、名称の漢字自体が季節を示し、季節のイメージがいかに重要であるかわかる。
 海の幸のほかにも、秋といえば松茸や柿もあれば、春には筍、夏には西瓜、冬には葱や蜜柑など、見慣れた山の幸や果菜類のなかにも、季節を彩る日本古来の食材は少なくない。
 たしかに、ハウス栽培や養殖によって、多くの果菜や魚介がほぼ一年中市場に出回り、季節感は薄れている。しかし、だからといって露地物や天然物がなくなったわけではない。まっとうな日本料理店では、質のいい露地物や天然物を使って季節感を演出している。
 日常に目をやっても、コンビニの弁当でさえ、栗ご飯や筍ご飯で秋や春を演出し、紅葉や桜のイメージが季節の彩りに使われる。
 いまでも日本人には季節感を食す感性がしっかりと息づいている。
 その典型が、俳句の季語である。水原秋櫻子、加藤楸邨、山本健吉といった現代を代表する俳人たちが編んだ『日本たべもの歳時記』をみると、日本古来の飲・・・