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社会・文化

グーグルVS中国「IT戦争」の行方

AI「アルファ碁」圧勝のその先

2017年7月号

 それは異様な光景だった。
 街中に運河が張り巡らされた「東洋のベネチア」とも称される中国浙江省烏鎮は、三年前から世界インターネット大会が毎年開かれ、サイバー先進都市としての顔も持つ。この地で五月二十七日、米グーグル傘下の英ディープマインド社が開発したAI(人工知能)「アルファ碁」と中国のトップ囲碁棋士・柯潔九段が向き合っていた。
 三番勝負はすでにアルファ碁が二勝し、この日が最後の対局だった。開始から約三時間後、柯は突然泣き崩れた。負けを悟ったのだ。立ち上がって舞台裏に姿を消すこと十五分。静寂に包まれた対局室に「ううっ」という嗚咽が漏れた。敗戦後、会見に臨んだ柯は「アルファ碁は完璧だった。これは残酷な事実だ。つらい、苦しい時間だった」とうなだれた。一方、満足な結果を得たディープマインド最高経営責任者(CEO)のデミス・ハサビスは「今回がアルファ碁にとって最後の対局イベントだ」と、プログラム開発からの「卒業」を宣言した。
 現在、世界最強とされる柯だが、まだ十九歳。「少年が見せた爽やかな悔し涙」と美談で片付けるのは簡単だ。しかし、共産党率いる中国政府が柯に・・・