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連載

をんな千一夜4

津田梅子
女子教育の祖の素顔
石井妙子

2017年7月号

 劣等生な上に、とりわけ英語の苦手だった私は、「津田塾」と聞くだけで今でも身体がビクリとする。中、高校時代、英語を教えて下さった先生方は大半が、この名門・津田塾のご出身で、授業はもとより人物も、極めて厳格な方が多かったからだ。
 津田塾大学の創立者は言うまでもなく、津田梅子。生涯独身を貫き、女子教育に身を捧げた教育者の鑑―と、モノの本には書かれている。劣等生の性として「敬して遠ざける」という意識が働き、私はこれまで積極的に、津田梅子を知ろうとは思わずにきた。立派だけれど堅苦しい人というイメージを勝手に抱いていたからだ。ところが、そんな私の先入観を取り払ってくれる本と出会った。津田塾の卒業生でもある作家、大庭みな子が書いた『津田梅子』。この本が他の類書と違うのは、一九八四年、津田塾構内で発見された大量の新資料をもとにした点にある。梅子がアメリカの養母ともいえる、ランマン夫人に宛てて書いた大量の私信が約百年ぶりに発見され、それをもとに書かれた新評伝なのである。文中で紹介される手紙の数々からは、生身の、極めて魅力的な梅子が立ち上がってくる。
 梅子の父、津田仙は外国奉行で・・・