三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

Book Reviewing Globe398

二十一世紀の「ツキジデスの罠」

2017年7月号

 米中関係の行く末は、とどのつまりプライドと恐怖感が決めることになるかもしれない。米国主導の世界システムに挑戦する台頭国中国のプライドと、中国に覇権国の地位を奪われることに対する衰退国米国の恐怖感が、双方の理性的な判断を狂わせ、両国とも引っ込みがつかなくなり、戦争へとなだれ込んでしまう恐れは一概に否定できない。
 世界システムにおける既存の覇権国とそれを覆そうとする台頭国との間の戦略的な調整と妥協ほど難しいものはない。グレアム・アリソン米ハーバード大学教授は、その悪魔的な権力政治の力学を「ツキジデスの罠」と名づけた。アリソンは、キューバ危機の十三日間のケネディ政権の政策決定過程を鋭利に解剖した名著『決定の本質』の著者である。
 ツキジデスは、紀元前五世紀の古代ギリシャ世界を支配したスパルタと新興パワーのアテナイの死闘となったペロポネソス戦争を記したアテネの歴史家である。
 民主政を築き、海上国家として繁栄し、自信をみなぎらせるアテナイは、徐々に帝国へと変質していく。メロスを占領したときは成人男性を皆殺しにし、女性と子供を全員奴隷とした。
 アテナ・・・