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連載

美食文学逍遥6

天麩羅、かくあるべし
福田育弘

2017年6月号

 江戸時代以来の東京の名物料理といえば、鰻と天麩羅、それに握り鮨だろう。
「コロモも頃合に揚がって、プンプン油のいゝ匂をさせている。中の海老は、前歯に当てると、コロリと折れる。このコロリと折れるように海老を揚げて食わせる家というのが、そうたんとはない。天民のは歯に力を入れなくとも、海老の方でコロリと折れてくれた。
 それでいて、海老の持っているうまい要素が皆生きているのだ。丁度食べ頃の状態で生かされているのだ。海老の新鮮な匂い、海老で一番うまいネットリとした舌ざわり、甘さ、まるで沸騰した油の影響なんか受けていないような感じで自分の持っているうまみを全部出しているのだ。いや、油とコロモによって、天麩羅にされることによって、自分の持っているうまさをもう一段いい状態で出しているのだ。
 生では出せない味、煮ても、焼いても、茄でても違ってしまう味、天麩羅にしなければどうしても出て来ない味を、海老が出しているのだ」
 小ぶりなサイマキ海老ゆえのサクッとした衣の歯触りに、海老独特の香りと甘味が柔らかい舌触りとともに伝わってくる、いかにも美味そうな文章ではない・・・