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連載

日本の科学アラカルト81

離れた場所に電気を送る「ワイヤレス送電」の研究

2017年5月号

 ニコラ・テスラ—。一般にはエジソンのほうが発明家として知られているが、電気工学などを学ぶ人の間ではテスラのほうが評価は高い。エジソンの下で働きながら、ことあるごとに対立したといわれており、一番有名なエピソードは送電段階で「直流」と「交流」のどちらを採用するかというもの。エジソンは前者が優れていると主張し、テスラは後者を推した。二人の議論の過程は省略するが、現在世界的に交流で送電が行われていることからどちらが正しかったかは自明だろう。
 テスラの「失敗」の中にも注目すべきものがある。中でも無線送電(ワイヤレス送電、ワイヤレス電力伝送)は最終的に成功しなかったものの、電線を使わずに電力を運ぶという構想はすばらしく、現在の技術の原点になった。そのためテスラは「無線送電の父」と呼ばれており、日本でも彼の流れを汲むような研究・開発が進められている。
 ワイヤレス送電にはいくつかの方式がある。送電先との距離で考えると、まず注目すべきは遠方への送電を可能にするマイクロ波方式だ。究極の利用法は宇宙太陽光発電。静止軌道に太陽光パネルを置き、そこで発電したものをマイクロ波・・・