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連載

美食文学逍遥4

定食屋「フリコトー」の郷愁
福田育弘

2017年4月号

 十九世紀のパリでは、外食産業が花開く。富裕層の社交場となる高級なレストランもあれば、庶民に日々の糧を提供する大衆的なレストランもあり、まさに百花繚乱、美食大国フランスの基礎が作られる。
 当時の単身者が暮らす住居には満足な調理設備がなく、とくに地方から一旗あげようと大志を抱いて首都にやってきた若者はレストランにたよるしかなかった。いや、それはレストランというより、日本でいうなら、定食屋とでもいったほうがしっくりするだろう。
 若者向け定食屋の評価の鉄則は、今も昔も、安くて美味くて、そしてボリュームがあることと決まっている。そんなレストランのひとつが、いまも若者や学生の街として知られるパリのカルチェ・ラタンにあった「フリコトー」だった。
「フリコトーの名を記憶している人は多い。王政復古のはじめの十二年間、カルチェ・ラタンに暮らした学生のなかで、飢えと貧乏の殿堂だったこの店に通わなかった者はまずいない。夕食は三皿からなっていて、ワインの小さいデカンタかビールが一本ついて十八スー、ワインが一本つくと二十二スーだった。若者の味方であるこの店が莫大な財産を築けなか・・・