身長百五十六センチ、体重五十六キロ。
　二〇一三年夏、岩手代表の花巻東高校の二番打者・千葉翔太の小さな体は、その何倍もの存在感を放っていた。千葉の言葉だ。
「日記によく『小さな巨人』になるんだと書いていました。小さくても大きな仕事をするんだ、と」
　千葉は非力さをカバーするため、ボールを極限まで引き付け、最後の最後でバットを出す。そうしてボールを「カット打法」によってファウルボールにし、投手に球数を放らせ、ときに四球を選びチャンスをつくった。
　時速百四十キロのボールがキャッチャーミットに到達するまでの時間は、一秒ない。およそ〇コンマ四秒だ。カット打法は、ほんのわずかタイミングが遅れただけでも空振りとなる、いわば捨て身の技だ。練習試合では、中途半端なスイングで三振したこともたびたびある。相手チームに、前にボールが飛ばないと揶揄されたこともあった。そんな中でも千葉は生き残るためにカットの技術に磨きをかけ、部員百二十三人と県内最多を誇る強豪私学の中で、レギュラーを勝ち取ったのだ。
「監督にはヒットを打たなくてもいいから、打席の中で粘れと言・・・