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経済

ホンハイ総帥「極秘来日」の標的

最新鋭「8K内視鏡」に白羽の矢

2017年3月号

 その噂が広がり始めたのは中国の春節、一月末のことだった。テリー・ゴウこと郭台銘氏が昨年暮れに極秘来日し、とある小さな会社を視察したらしい—。ゴウは言わずと知れた台湾・鴻海精密工業の総帥で、シャープの買収により日本でも名前を轟かせた男である。そんな大物が人目を忍んで訪れた先はどこだったのか。これまでも隠密行動が取りざたされたことはあるが、その内実は謎だった。だが今回、シャープの内情に詳しい関係者の話で、ゴウが目を付けたベンチャーが特定された。それは最新鋭の医療機器、8K内視鏡カメラを開発した「カイロス」という会社だった。
 ゴウは一日に最低でも十六時間は働き、休みもほとんど取らないと言われる。日本で無名に近いこの企業へ直接足を運ぶ行動力は世界的なビジネスリーダーの希代の才覚を物語り、日本の会社に染みついた鈍重な思考と判断との強烈なまでのコントラストを描く。
 JR御茶ノ水駅から歩いて五分ほどの雑居ビルの四階。そこに「カイロス」のオフィスはあった。「テリー・ゴウが昨年末にここに来訪したと聞きましたが?」。そう尋ねたが、「追って連絡します」と確認を避けられた・・・