中部電力と東電「実質合併」への茨道
福島賠償「そっちのけ」で渦巻く我欲
2017年2月号公開
中部電力のある幹部は、思い出すのも不快げに吐き捨てた。
「つまらんスピーチだったよ」
昨年十一月二十八日夕刻、パレスホテル(東京・丸の内)最大の宴会場「葵」は、一千人を超える資源・燃料関係者で賑わっていた。電力会社、商社、銀行などの担当者に交じって外国人の姿も目立つ。それも当然、このイベントは主催者がフランス電力公社傘下の英EDFトレーディングから石炭売買事業の買収にほぼ合意し、アジアで本格始動する石炭ビジネスの披露も兼ねた設立一周年パーティーだったからだ。
設立一周年の主催者とは、JERA、すなわち中電と東京電力ホールディングス(HD)が折半出資する燃料・火力発電会社である。宴もたけなわの頃、中電出身の垣見祐二JERA社長がスピーチに立ったが、挨拶文を読み上げるだけで、一片のウイットもユーモアもない。「こんな調子で、海千山千の海外資源企業と渡り合えるのか」と、身内の中電からさえ嘆息が漏れた。しかし、この日、最も不機嫌だったのは東電HDの筆頭株主、原子力損害賠償・廃炉等支援機構の経済産業官僚だった。
「この時期に、JERAは何を考えているんだ!」
昨年十一月二十八日と言えば、経産省の有識者会合「東京電力改革・1F問題委員会」の、“1F”こと福島第一原発の事故債務をめぐる議論が佳境を迎えていた時期。二十一兆円超に膨らんだ賠償・除染・廃炉費用をどこまで国民に負担してもらうか、微妙な決定を下すときに、五千万円もかけて華美なパーティーを開く無神経さに苛立っていたのだ。
パーティーは当初、司会に米国人タレントのクリス・ペプラーを呼び、メディアにも開放して盛大に開く予定だった。が、原賠機構の厳命でタレント司会は不可、メディアも完全締め出しとなった。それでも当日、事前に東電HDの數土文夫会長と廣瀬直己社長、中電の水野明久会長と勝野哲社長の四者会談が開かれていた。いったい何が話し合われたのか……。
“噴飯物”のJERAパーティー
「あと二カ月で会社の命運が決まる。本当にこのままいくのか」
中電からはこんな焦燥の声が聞こえてくる。というのも、中電と東電HDは既存火力事業までJERAへ統合するか否か、三月末に決断することになっているからだ。
東電1F委は、東電HDが原発事故債務を賄うため、年五千億円規模の純利益を三十年にわたって確保する目標を掲げる一方、他社との部門別事業統合による増益策を打ち出した。その成功例として称揚されているのがJERAである。第一ステップは燃料調達、第二ステップでは上流開発と海外発電事業を統合してきた。
おそらく四者会談では、東電側の數土氏、廣瀬氏から「第三ステップの既存火力統合もよろしく」と、中電側は念を押されたに違いない。しかし、JERA設立に合意した水野前社長はともかく、現社長の勝野氏の逡巡は深い。
中電の建設仮勘定を含めた火力資産は約九千億円であり、全社固定資産の二〇%を占める。これをJERAに統合するということは、浜岡原発の再稼働見通しが立たない中電にとって発電設備の大半を切り出すことを意味する。経産省と原賠機構は既存火力に続いて送配電事業の統合も目論んでおり、その場合、固定資産の六〇%が切り出される。つまり、既存火力の統合とは、東電HDとの事実上の合併へ堰を切ることなのだ。
しかも、対等合併にこだわれば、ロハでは済まない。中電の約九千億円の火力資産に対し、規模で勝る東電HDのそれは約一・五兆円。簿価に約六千億円の差がある。東電HDに比べて最新鋭火力が多く、有利子負債の少ない中電はデューデリジェンスに有利とはいえ、二千億円は差額調整準備金の拠出を覚悟しなければならない。六月の株主総会では「そこまでして“泥舟”の東電に乗る理由がどこにあるのか!」という批判の矢面に、勝野氏は立たされることになるだろう。
いや、すでに当のJERAが内部分裂しているのだ。中電の火力技術者だった三輪田達典JERA常務は、既存火力統合に反対を訴えて憚らない。それに呼応する勢力は中電本体にもあり、「JERAの垣見は何を浮かれているんだ」と、パーティーに批判的な声も囁かれていた。垣見氏は本来、燃料・火力部門の出身ではない。新規事業担当が長く、かつてスーパー銭湯を事業化して大赤字を出した。冒頭の中電幹部は指摘する。
「三輪田さんら“油まみれ”になって火力発電所を運転してきた現場技術者から見れば、垣見さんは東電から来たヤリ手に踊らされているとしか映らないだろう」
可児行夫JERA常務—。三輪田氏らが忌憚する“東電から来たヤリ手”とは、垣見氏よりひと回り若い五十二歳の壮年で同社を切り盛りする、かつての東電改革派だ。JERAを世界最大の資源商社に育て上げようと目論む影の主役と言っていい。
「福島の責任をどう考えているのか」
可児氏は青山学院大学を卒業後、東電で一貫して燃料畑を歩んできた。が、歴代燃料部長の大半を東京大学出身者が占めてきた東電にあっては傍流の存在。それでも、上流開発への進出を主張し続け、当時の勝俣恒久会長に認められて、豪州ウィートストーンのLNG(液化天然ガス)開発の権益取得に成功したことで知られる。
転機となったのは福島第一原発事故だ。可児氏は見學信一郎氏(現東電HD常務)、関知道氏(同)ら若手を糾合して「チーム希望」を結成、東電は原子力部門を分社して事故債務を切り離し、燃料・火力の自由な民間企業として生き残るべきだとする提言をまとめた。これは勝俣氏の怒りを買い、可児氏は豪州法人へ左遷される。
しかし、経産省から取締役として出向してきた嶋田隆氏(現通商政策局長)が勝俣系守旧派を粛清すると、呼び戻され、一躍改革派幹部に復権した。そして嶋田氏へ献言し、中電を巻き込んで二〇一五年四月に設立したのがJERAなのだ。それから約二年、嶋田氏も去った現在、JERAは可児氏が原発事故以来温めてきた野心を実現させる器となっている。
可児氏は、自らの監視役だった東電労務畑出身の内藤義博JERA会長(当時)を追い出し、懇意のLNGブローカー、ゴーデンカー氏に交代させ、さらにEDFトレーディングの石炭売買事業も買収した。今や年収は二千五百万円と東電HDの廣瀬社長より多い。JERAは海外の優秀なトレーダーを採用するため、公的管理下の東電HDとは異なる報酬体系になっており、実際、EDFトレーディングから転籍してきた外国人は一億円プレーヤーばかりだ。
こうした勝手放題のJERAに東電守旧派はもちろん、中電からも不信の眼が向けられるのは当然だろう。中電幹部が打ち明けた。
「JERAは年四千万トンと世界最大のLNG調達量を誇りながら、その実際のトレーディング利益は数億円しか上がっていない」
一昨年来の原油価格下落の打撃は大きい。さらに誤算なのは、一八年からウィートストーンLNGの高値玉の輸入が始まることだ。可児氏が権益取得した〇九年以前は、まだ米国のシェールガス革命は本格化しておらず、中国も経済成長に伴う電力不足が深刻だった。しかし現在、原油価格は一バレル五十ドル台に低迷し、LNGのスポット玉は溢れ返っている。
にもかかわらず、JERAは二〇三〇年度に二千八百億円の純利益目標(一六年度比十四倍)の旗を降ろしていない。これはウィートストーンLNGの米中輸出を前提に弾いた目標だが、その想定原油価格は実に百五十五ドル。米中輸出どころか、同権益の減損処理は必至だろう。不安材料はまだある。
「それでは困る。福島の責任をどう考えているのか」
東電1F委のヒアリングに「当面、配当は考えていない」と答えた可児氏らJERA経営陣に対し、ある委員は鼻白んだ。
東電HDの孫会社に当たるJE
RAは、原賠機構が課す株式引受契約の義務は負っていない。つまり、経営判断は尊重される建前だが、そんなことは政治の風向き次第でいつでも反故になる。本当にJERAが一六年度比十四倍の純利益を上げ始めれば、その多くはたちまち原発事故債務に召し上げられるだろう。原子力の“くびき”から解放され、世界最大の資源商社を夢みる可児氏の野心は、しょせん夢でしかない。しかし、そのことは既存火力統合に逡巡する中電の勝野社長の利害にも一致するのだ。
ジリ貧の将来か電力再編か
改めてなぜ中電はJERAを設立したのか—。パーティー会場で周囲に黒山の人だかりができていたのは、垣見氏でも勝野氏でもなく、水野会長だったという。七年前、水野氏を社長指名したのは川口文夫元会長であり、その川口氏が最も気を使っていたのは中電の大口電力収入の三〇%を占めるトヨタ自動車グループである。
中電の屋台骨だが、いずれ関西電力は原発を再稼働させてトヨタを取りにくる。比べて中電の原発は動かず、得意の石炭火力も環境規制が厳しい。「ジリ貧の将来を考えれば、首都圏と海外の火力で稼ぐしかなかった」(中電幹部)というのがJERA設立の本音だ。しかし、東電HDの廣瀬社長は水野氏のそんな苦衷を忖度しない。
「あの人は何者だ!」
提携に向けて両社長が初めて折衝したとき、廣瀬氏は燃料・火力子会社となるJERAには原価ベースで電力を供給させ、利益は東電・中電の小売り部門で山分けしようと主張した。これに気分を害した水野氏は、前述のように周囲に不信感を訴え、JERAは破談寸前に追い込まれたという。その後も両氏のわだかまりは氷解していない。
もし中電が東電HDとの事実上の合併に踏み切るなら、経産省と原賠機構へ廣瀬氏に代わるパートナーを求めるだろう。それは、東電HD内部の新たな政治闘争となって事態を一段と錯綜させる。渦巻く野心と打算をはらみつつ、電力再編は間もなく始まる。
©選択出版
「つまらんスピーチだったよ」
昨年十一月二十八日夕刻、パレスホテル(東京・丸の内)最大の宴会場「葵」は、一千人を超える資源・燃料関係者で賑わっていた。電力会社、商社、銀行などの担当者に交じって外国人の姿も目立つ。それも当然、このイベントは主催者がフランス電力公社傘下の英EDFトレーディングから石炭売買事業の買収にほぼ合意し、アジアで本格始動する石炭ビジネスの披露も兼ねた設立一周年パーティーだったからだ。
設立一周年の主催者とは、JERA、すなわち中電と東京電力ホールディングス(HD)が折半出資する燃料・火力発電会社である。宴もたけなわの頃、中電出身の垣見祐二JERA社長がスピーチに立ったが、挨拶文を読み上げるだけで、一片のウイットもユーモアもない。「こんな調子で、海千山千の海外資源企業と渡り合えるのか」と、身内の中電からさえ嘆息が漏れた。しかし、この日、最も不機嫌だったのは東電HDの筆頭株主、原子力損害賠償・廃炉等支援機構の経済産業官僚だった。
「この時期に、JERAは何を考えているんだ!」
昨年十一月二十八日と言えば、経産省の有識者会合「東京電力改革・1F問題委員会」の、“1F”こと福島第一原発の事故債務をめぐる議論が佳境を迎えていた時期。二十一兆円超に膨らんだ賠償・除染・廃炉費用をどこまで国民に負担してもらうか、微妙な決定を下すときに、五千万円もかけて華美なパーティーを開く無神経さに苛立っていたのだ。
パーティーは当初、司会に米国人タレントのクリス・ペプラーを呼び、メディアにも開放して盛大に開く予定だった。が、原賠機構の厳命でタレント司会は不可、メディアも完全締め出しとなった。それでも当日、事前に東電HDの數土文夫会長と廣瀬直己社長、中電の水野明久会長と勝野哲社長の四者会談が開かれていた。いったい何が話し合われたのか……。
“噴飯物”のJERAパーティー
「あと二カ月で会社の命運が決まる。本当にこのままいくのか」
中電からはこんな焦燥の声が聞こえてくる。というのも、中電と東電HDは既存火力事業までJERAへ統合するか否か、三月末に決断することになっているからだ。
東電1F委は、東電HDが原発事故債務を賄うため、年五千億円規模の純利益を三十年にわたって確保する目標を掲げる一方、他社との部門別事業統合による増益策を打ち出した。その成功例として称揚されているのがJERAである。第一ステップは燃料調達、第二ステップでは上流開発と海外発電事業を統合してきた。
おそらく四者会談では、東電側の數土氏、廣瀬氏から「第三ステップの既存火力統合もよろしく」と、中電側は念を押されたに違いない。しかし、JERA設立に合意した水野前社長はともかく、現社長の勝野氏の逡巡は深い。
中電の建設仮勘定を含めた火力資産は約九千億円であり、全社固定資産の二〇%を占める。これをJERAに統合するということは、浜岡原発の再稼働見通しが立たない中電にとって発電設備の大半を切り出すことを意味する。経産省と原賠機構は既存火力に続いて送配電事業の統合も目論んでおり、その場合、固定資産の六〇%が切り出される。つまり、既存火力の統合とは、東電HDとの事実上の合併へ堰を切ることなのだ。
しかも、対等合併にこだわれば、ロハでは済まない。中電の約九千億円の火力資産に対し、規模で勝る東電HDのそれは約一・五兆円。簿価に約六千億円の差がある。東電HDに比べて最新鋭火力が多く、有利子負債の少ない中電はデューデリジェンスに有利とはいえ、二千億円は差額調整準備金の拠出を覚悟しなければならない。六月の株主総会では「そこまでして“泥舟”の東電に乗る理由がどこにあるのか!」という批判の矢面に、勝野氏は立たされることになるだろう。
いや、すでに当のJERAが内部分裂しているのだ。中電の火力技術者だった三輪田達典JERA常務は、既存火力統合に反対を訴えて憚らない。それに呼応する勢力は中電本体にもあり、「JERAの垣見は何を浮かれているんだ」と、パーティーに批判的な声も囁かれていた。垣見氏は本来、燃料・火力部門の出身ではない。新規事業担当が長く、かつてスーパー銭湯を事業化して大赤字を出した。冒頭の中電幹部は指摘する。
「三輪田さんら“油まみれ”になって火力発電所を運転してきた現場技術者から見れば、垣見さんは東電から来たヤリ手に踊らされているとしか映らないだろう」
可児行夫JERA常務—。三輪田氏らが忌憚する“東電から来たヤリ手”とは、垣見氏よりひと回り若い五十二歳の壮年で同社を切り盛りする、かつての東電改革派だ。JERAを世界最大の資源商社に育て上げようと目論む影の主役と言っていい。
「福島の責任をどう考えているのか」
可児氏は青山学院大学を卒業後、東電で一貫して燃料畑を歩んできた。が、歴代燃料部長の大半を東京大学出身者が占めてきた東電にあっては傍流の存在。それでも、上流開発への進出を主張し続け、当時の勝俣恒久会長に認められて、豪州ウィートストーンのLNG(液化天然ガス)開発の権益取得に成功したことで知られる。
転機となったのは福島第一原発事故だ。可児氏は見學信一郎氏(現東電HD常務)、関知道氏(同)ら若手を糾合して「チーム希望」を結成、東電は原子力部門を分社して事故債務を切り離し、燃料・火力の自由な民間企業として生き残るべきだとする提言をまとめた。これは勝俣氏の怒りを買い、可児氏は豪州法人へ左遷される。
しかし、経産省から取締役として出向してきた嶋田隆氏(現通商政策局長)が勝俣系守旧派を粛清すると、呼び戻され、一躍改革派幹部に復権した。そして嶋田氏へ献言し、中電を巻き込んで二〇一五年四月に設立したのがJERAなのだ。それから約二年、嶋田氏も去った現在、JERAは可児氏が原発事故以来温めてきた野心を実現させる器となっている。
可児氏は、自らの監視役だった東電労務畑出身の内藤義博JERA会長(当時)を追い出し、懇意のLNGブローカー、ゴーデンカー氏に交代させ、さらにEDFトレーディングの石炭売買事業も買収した。今や年収は二千五百万円と東電HDの廣瀬社長より多い。JERAは海外の優秀なトレーダーを採用するため、公的管理下の東電HDとは異なる報酬体系になっており、実際、EDFトレーディングから転籍してきた外国人は一億円プレーヤーばかりだ。
こうした勝手放題のJERAに東電守旧派はもちろん、中電からも不信の眼が向けられるのは当然だろう。中電幹部が打ち明けた。
「JERAは年四千万トンと世界最大のLNG調達量を誇りながら、その実際のトレーディング利益は数億円しか上がっていない」
一昨年来の原油価格下落の打撃は大きい。さらに誤算なのは、一八年からウィートストーンLNGの高値玉の輸入が始まることだ。可児氏が権益取得した〇九年以前は、まだ米国のシェールガス革命は本格化しておらず、中国も経済成長に伴う電力不足が深刻だった。しかし現在、原油価格は一バレル五十ドル台に低迷し、LNGのスポット玉は溢れ返っている。
にもかかわらず、JERAは二〇三〇年度に二千八百億円の純利益目標(一六年度比十四倍)の旗を降ろしていない。これはウィートストーンLNGの米中輸出を前提に弾いた目標だが、その想定原油価格は実に百五十五ドル。米中輸出どころか、同権益の減損処理は必至だろう。不安材料はまだある。
「それでは困る。福島の責任をどう考えているのか」
東電1F委のヒアリングに「当面、配当は考えていない」と答えた可児氏らJERA経営陣に対し、ある委員は鼻白んだ。
東電HDの孫会社に当たるJE
RAは、原賠機構が課す株式引受契約の義務は負っていない。つまり、経営判断は尊重される建前だが、そんなことは政治の風向き次第でいつでも反故になる。本当にJERAが一六年度比十四倍の純利益を上げ始めれば、その多くはたちまち原発事故債務に召し上げられるだろう。原子力の“くびき”から解放され、世界最大の資源商社を夢みる可児氏の野心は、しょせん夢でしかない。しかし、そのことは既存火力統合に逡巡する中電の勝野社長の利害にも一致するのだ。
ジリ貧の将来か電力再編か
改めてなぜ中電はJERAを設立したのか—。パーティー会場で周囲に黒山の人だかりができていたのは、垣見氏でも勝野氏でもなく、水野会長だったという。七年前、水野氏を社長指名したのは川口文夫元会長であり、その川口氏が最も気を使っていたのは中電の大口電力収入の三〇%を占めるトヨタ自動車グループである。
中電の屋台骨だが、いずれ関西電力は原発を再稼働させてトヨタを取りにくる。比べて中電の原発は動かず、得意の石炭火力も環境規制が厳しい。「ジリ貧の将来を考えれば、首都圏と海外の火力で稼ぐしかなかった」(中電幹部)というのがJERA設立の本音だ。しかし、東電HDの廣瀬社長は水野氏のそんな苦衷を忖度しない。
「あの人は何者だ!」
提携に向けて両社長が初めて折衝したとき、廣瀬氏は燃料・火力子会社となるJERAには原価ベースで電力を供給させ、利益は東電・中電の小売り部門で山分けしようと主張した。これに気分を害した水野氏は、前述のように周囲に不信感を訴え、JERAは破談寸前に追い込まれたという。その後も両氏のわだかまりは氷解していない。
もし中電が東電HDとの事実上の合併に踏み切るなら、経産省と原賠機構へ廣瀬氏に代わるパートナーを求めるだろう。それは、東電HD内部の新たな政治闘争となって事態を一段と錯綜させる。渦巻く野心と打算をはらみつつ、電力再編は間もなく始まる。
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