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連載

美食文学逍遥(新連載)

『美味礼讃』の真意
福田育弘

2017年1月号

 飲食というとすぐに料理や食材の話になりがちだ。食文化という表現もやや手垢のついた感があって、まぁ重要だが、しょせん趣味の領域、社会の大事ではないというニュアンスが感じられる。フランス文学研究という高尚な領域から卑俗な飲食の考察に踏み込んでしまったわたし自身のひがみだろうか。
 わたしの知り合いに、料理が好きで、東大の大学院で料理史の研究をやりたいと述べると、指導教授からそれは婦女子のやるべきものという意味合いのことをやんわりいわれ、しかたなくフランス経済史を研究して成果をあげ、東大に残って教鞭をとった男性がいる。やがて退官後、私立大学に移り、晴れて料理に関する講義を立ちあげ、日仏会館ではフランスの地方料理の講座も開いている。もちろん、フランス料理の腕前は玄人はだしだ。
 ここでも話が料理に落ち着いてしまったが、あえていえば飲食において料理は目に見えるもっともわかりやすい重要な要素であっても、ひとつの項目にすぎない。
 料理の前に、食材の選定から、さまざまに切り、さまざまに加熱する調理という行為があり、それでできあがった料理を、しかじかの食器に、しかじかの・・・