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連載

誤審のスポーツ史25

「残心」とは何なのか
中村 計

2017年1月号

 剣道に誤審はない、というのが建前である。
 剣道とは、スポーツではなく、あくまで武道であり、究極のところで勝ち負けを競うものではないからだ。いわば、修行なのだ。
 しかし、これほど微妙な判定が続出する競技も珍しい。
 それもそのはずで、たとえば面を打つ体勢に入ってから打つまで、一流剣士なら〇・一秒ほどで完了できる。したがって、正しい部位に当たっていないのに一本となるケースや、逆に正確に打ち込んでいるにもかかわらず無効となるケースは、日常茶飯事だ。さらに、相打ちとなった場合、〇・〇〇一秒差を見極めなければならないこともある。もはや人間の目の限界を超えている。
 ただ、あえて言えば、剣道の一本はフェンシングのように突いた「点」を機械でジャッジする競技ではない。剣道における打突は「当てる」のではなく「切る」ことを目的としているため、打ったときの形、「残心」と呼ばれる打ち終えてからの姿勢を含めた全体の流れ、つまり「線」で判断する。残心はまた、謙譲を美徳とする精神性の象徴でもある。一本を決めた後、ガッツポーズでもしようものなら、即座に取り消される。{br・・・