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社会・文化

村上春樹は「翻訳モノ」こそ面白い

自作小説にも劣らぬ文学への功績

2017年1月号

「それでも僕は一人の翻訳者として、一人の小説家として、『グレート・ギャツビー』という作品の根幹をなすいちばん大事な何かを、そのエッセンスのようなものを、少しでも有効に、少しでも正しく伝えることのできる翻訳の道筋を見いだすべく、精一杯努力をし誠意を尽くした」(『グレート・ギャツビー』訳者あとがき)
 村上春樹にとって「翻訳」とは何なのか。
 人気作家の余技などでは決してない。むしろ彼にとって翻訳は、走ることや音楽を聴くことと同じ生活の一部であり、みずから書く小説と同等の執筆活動として、相互に影響を与え合っているのだ。
「『ねじまき鳥クロニクル』みたいな長いものを書いているときは、一種の放心状態になっちゃうから、三カ月続けて書くとそのあとしばらく休養をとるわけです。休んでいる間は、こつこつと翻訳をやっていることが多いですね。手仕事みたいな感じで。それで自分の中で消耗されたものを埋めていく」(『翻訳夜話』)
 もちろん、そうなった背景には海外文学に関する深い造詣と個人体験がある。高校時代から英語の原書を読むことに夢中になったというから、頭のなかではすで・・・