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連載

本に遇う 連載204

べっちゃくちゃの果てに
河谷史夫

2016年12月号

 よせばいいのに、ジジイとババアがべっちゃくちゃと言い争う大統領選挙には辟易した。あれがわれわれに民主主義を教えてくれたというアメリカの現状か。どちらかなら、わたしはババアのほうが嫌だったが、しかしジジイでよかったかどうかの判断はつかない。
 十一月九日は国立劇場にいた。「仮名手本忠臣蔵」の十、十一、十二月にわたる全段完全通し上演。十年前にやはりここで真山青果の「元禄忠臣蔵」全十篇を観た。行けるときに行っておかないと観たいものも観られなくなる。
 当日は第二部で「道行旅路の花聟」に始まり、勘平が悲劇的最期に向かっていく五段目、六段目と由良之助が祇園一力茶屋で本心を隠して遊ぶ七段目である。
 丸谷才一に言わせれば、四十七士の代表として上級武士の由良之助、下級武士の勘平を選んだところが作者の妙。見物はこの二人の身の上を手がかりに浪士全員の辛い生活を思いやることになるのだが、とまれ、七十代の菊五郎と吉右衛門の出番である。歌舞伎界のジジイたちは健在であった。
「道行」はひそかに色にふけり、大事の場に居合わせなかったお軽勘平が、その不忠を恥じて鎌倉を出奔し・・・