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連載

美の艶話 12

美少年の妖しい誘惑
佐伯順子(同志社大学教授)

2016年12月号

 いとけない少年が、膝をおり、真剣なまなざしで手をあわせる。聖徳太子二歳のみぎり、東をむいて南無仏と唱えたという伝説にもとづき、類似のスタイルの聖徳太子像が各地に複数伝わっている。緋の袴を腰に、あるいは目を閉じ、あるいは前をしっかりと見据え、真摯に祈る姿。
 一をきいて十を知る才気煥発ぶりも伝えられる聖徳太子は、奈良時代から平安時代にかけて、太子その人を菩薩、観音とみる信仰の対象となっていった。聖徳太子の像を祀る太子堂も、各地に残されている。
 なるほど、太子のしっかりと結ばれた唇ときりりとひきしまった眉は、いかにも早熟な少年ぶりをみせているが、少女ともみまごう愛らしい上半身と、胸の上であわせたまるみをおびた子供らしい手がチャーミング。幼い身体と大人びた表情の組み合わせが、太子像独特のオーラを放つ。
 聖徳太子の図像といえば、かつて一万円札の柄にもなった髭のある大人の絵もよく知られているが、少年像が多く残されているのはなぜなのか。それは、あながち太子の少年時代の天才ぶりを表現するためだけではない。ありていにいえば、日本人は昔から今にいたるまで、少・・・