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経済

《経営者東京裁判》 古森 重隆(富士フイルムHD 会長兼CEO)

過大評価の「君臨十六年」

2016年12月号

 まとめ上げたディールは約四十件、使ったカネは開示されている分だけで五千億円規模に達しているらしい。富士フイルムホールディングス(HD)会長兼CEO(最高経営責任者)の古森重隆が、同社の前身である富士写真フイルムの社長に就任したのは二〇〇〇年。以来、約十六年間にわたって繰り広げてきたM&Aの成果だ。
 その古森が十一月、新たに仕留めた「獲物」が武田薬品工業傘下の試薬大手、和光純薬工業(大阪、武田出資比率六九・四二%)だ。和光は創薬研究用の試薬では国内首位。難病治療の鍵を握る胚性幹細胞(ES細胞)やiPS細胞の培養に使う試薬などで有望な技術を持つ。これらを取り込むことができれば、自社の再生医療事業とのシナジーが期待できる。また臨床検査薬分野に強いのも特徴だ。このためX線診断装置や超音波診断装置など、写真フイルム時代から手掛けている医療機器ビジネスとの親和性も高いと踏んだのだろう。武田が八月と十月に実施した二回の入札を勝ち抜き、優先交渉権を得た。一六年度中にも買収手続きを完了させたい意向だという。
 だが、市場の反応は決して芳しいものとは言えない。足元の株価は四千百円前・・・