三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

社会・文化

コントラバス名手 「河原泰則」の異彩

世界最高峰の低音を奏でる「サムライ」

2016年10月号

 毎年八月末からオクトーバーフェスト開幕前までの三週間程、ドイツ公共放送連盟(ARD)が主催し開催されるミュンヘンARD国際音楽コンクールは、際立った特徴を有している。毎年二十数部門から四つが選ばれ、全く異なる大会が市内各地で並行して開催されるのだ。六十五回目となる二〇一六年の部門は、ハープ、ホルン、コントラバス、弦楽四重奏。三十六カ国総計百八十人もの若き音楽家が審査に臨んだ。
 なかでも注目を集めるのは、大規模な国際大会がここしかない部門である。特にコントラバスは一九七九年の初回から今回まで過去六度しか開催されず、優勝者は三人のみ。〇三年に出た史上初の優勝者と九一年大会三位はベルリンフィル首席奏者、前大会優勝者もベルリンフィル団員に採用されている。ソリストが存在しない楽器とすれば、紛うことなき世界最高のコンクールだ。
 九月九日、旧王宮内ヘラクレスザールで三名のファイナリストが弾く本選が終了。やがて舞台中央に登場したのは、真っ白なざんばら髪を一本に纏めた長身痩躯の東洋人である。コントラバス部門審査委員長の河原泰則だ。まずは英語で「会場にお揃いの皆様、コントラバスを・・・