三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

WORLD

トルコ「軍反乱劇」の 地政学的深傷

最大の「敗者」は米国

2016年8月号

 クーデター未遂事件で世界を驚かせたトルコが、「親ロシア・反米」の外交に転じている。シリア政策とクルド人対策で、米欧との対立が抜き差しならなくなったためだ。国内では、エルドアン大統領がロシア型の強権政治を進めるのは確実で、領内に核兵器もある北大西洋条約機構(NATO)加盟国の漂流に、米国は緊急対応を迫られている。
ロシア・イランとは和解へ
 七月十五日深夜(現地時間)に突然入ってきた「クーデター発生」の一報。政府と軍の動きに追われ、注目されなかったが、今後のトルコの方向性を明示する二つの事件が、その直後に起きていた。
 まず、首都アンカラから約五百キロ離れたインジルリク空軍基地で、停電が起こった。同基地は一九五〇年代から、米軍とトルコ軍が共同使用し、戦術核兵器も備えたNATOの最前線拠点だ。地元発電所が基地への電力供給を止めたのが原因だった。
「緊急事態のため、トルコ側、米側ともに電力供給を止めたとしていますが、米軍関係者は『トルコ側は全く停電がなかった』と証言している。緊急発電で軍備に問題はないが、基地勤務者は・・・