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連載

本に遇う 連載199

アメリカを赦せるか
河谷 史夫

2016年7月号

 一つの作文の評判がいい。
 五月二十七日、広島でのオバマ米国大統領による演説である。新聞はこぞって「核なき世界へ」だの「核廃絶へ決意」だのと大見出しをつけ、その全文に一頁を使い、英文と和訳とを対比して掲載するという扱いであった。
「71年前、晴天の朝、空から死が降ってきて世界が変わりました。閃光と炎の壁がこの街を破壊し、人類が自分自身を破壊する手段を手に入れたことを示しました」
 毎日新聞によると、この出だしを、「すごい」と絶賛したのは、「言うだけ首相」に終わった鳩山由紀夫のスピーチライターで元内閣官房副長官だった松井孝治である。
「普通だったら、犠牲者への哀悼を表するところから入るじゃないですか。それを原爆投下シーンから入ったんですから。そうくるのか、と感心しました」
 と誉めるのだが、わたしなどはまずここでつまずく。
 死は空から降って来たのではない。降らせたやつがいたのである。世界は自然に変わったのではない。人為的に変えられたのである。そしてオバマは「この街を破壊した」国の今の大統領という立場で、ここ広島の地に立ってい・・・