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連載

皇室の風 92

クビをかけてるんだ
岩井克己

2016年4月号

  天皇・皇后の医療の積年の閉鎖的な旧弊に風穴を開けた二人の医者が相次ぎ亡くなった。
 今年一月二十日に前皇室医務主管・金澤一郎(すい臓がん、享年七十四)。二月十九日に元皇室医務主管兼侍医長・池永達雄(肺がん、享年八十五)。
 始まりは、平成五年十月二十日朝、皇后が週刊誌などのバッシングのなか倒れ、声を失った時だ。同日夕刻、池永の要請で御所に駆けつけたのが東京大学医学部附属病院神経内科長の金澤だった。東大産婦人科の重鎮で宮内庁御用掛を長年務めた坂元正一・元母子愛育会総合母子保健センター所長が推薦したようだ。
 後から考えても、この人選は関係者が期待した以上に適任だったと思う。倒れてわずか三日後の十月二十三日には徳島・香川国体の四泊五日の日程が迫っており、当然、宮内庁幹部・側近全員が皇后の同行に反対するなか、「孤立無援で」(金澤)皇后の同行を勧めた。最後は天皇が「みながこれほど心配してくれているのだから」と皇后、金澤をなだめたという。
 金澤は「お年寄り、働き盛りの夫婦、子供たち。そうした市井の一般の人たちの屈託のない歓迎や気遣いに接する・・・