皇室の風94
「お過ごしよう」をつかめ
岩井克己
2016年6月号
「お過ごしようをつかめ」
現役時代、後輩の担当記者には口を酸っぱくして言った。そして新たに担当記者が配属されるたびに歴代のデスクや社会部長には「長い目で見てやってほしい」と言い続けた。
「お過ごしよう」とは、天皇・皇族の側近らの口から時折出る言葉だ。天皇・皇族方のプライベートはわからないし話せないという文脈で使われる。が、時に敬愛や親しみを込め「話さずにいられない」場合に使われることもある、天皇・皇族の公的な活動の舞台裏や日常の暮らしぶり、研鑽ぶりを指す特別の響きを持つ言葉である。
「禁中」の奥で起きていることを知るのは個々の側近ですら難しい。ましてや記者たちにとってをや。ごく偶に塀の向こうから風に乗って漂ってくる花びらをつかまえ、大事に集め、長い時間をかけて点を線に、線を面にと描く作業にも似ている。
「普段から『お過ごしよう』もとれないようでは、大事な局面で奥で何が起きているかはとれない」というのが、自省も込めて後輩記者に伝えたい実感なのである。
ほかの分野なら取材したものの多くは右から左へと記事に書けるが、この世界の・・・
現役時代、後輩の担当記者には口を酸っぱくして言った。そして新たに担当記者が配属されるたびに歴代のデスクや社会部長には「長い目で見てやってほしい」と言い続けた。
「お過ごしよう」とは、天皇・皇族の側近らの口から時折出る言葉だ。天皇・皇族方のプライベートはわからないし話せないという文脈で使われる。が、時に敬愛や親しみを込め「話さずにいられない」場合に使われることもある、天皇・皇族の公的な活動の舞台裏や日常の暮らしぶり、研鑽ぶりを指す特別の響きを持つ言葉である。
「禁中」の奥で起きていることを知るのは個々の側近ですら難しい。ましてや記者たちにとってをや。ごく偶に塀の向こうから風に乗って漂ってくる花びらをつかまえ、大事に集め、長い時間をかけて点を線に、線を面にと描く作業にも似ている。
「普段から『お過ごしよう』もとれないようでは、大事な局面で奥で何が起きているかはとれない」というのが、自省も込めて後輩記者に伝えたい実感なのである。
ほかの分野なら取材したものの多くは右から左へと記事に書けるが、この世界の・・・