インド「宗教対立」の暗雲
猛威を振るう「ヒンズー至上主義」
2016年1月号
「一人の国民として、私は危機感を募らせている。妻が『インドを離れるべきではないか』と漏らしたこともある」。昨年十一月下旬、インドを代表する国民的映画スター、アーミル・カーン氏のこんな発言が議論を呼んだ。カーン氏は二〇一三年に日本で公開された映画『きっと、うまくいく』でも主役を務めたイスラム教徒の人気俳優。冒頭の発言は、インド国内で散発的に発生しているヒンズー、ムスリム間の宗教対立に対する懸念を語ったものだった。
しかし、発言は多くの国民の反発を呼んだ。ヒンズー至上主義を掲げる与党・インド人民党(BJP)のラオ報道官は「国中の人が傷ついた」と批判。極右政党シブ・セーナーの地方支部もカーン氏が滞在するホテルで抗議デモを行い、「アーミル・カーンに平手打ちを食らわせたら賞金十万ルピー(約十八万円)を支払う」と宣言した。インターネットでは「アーミル・カーンの国外移住」に対する署名活動が行われ、コメント欄には「出て行く前にインドで稼いだお金を返せ」「(内戦下の)シリアこそ移住先にふさわしい」などと批判的な書き込みがあふれた。憎悪に満ちたコメントの数々は、インド社会が宗教を軸に分断されていく・・・