ひどい目に遭った。

　穏やかで静かな平和が崩れて、ちょっとした戦争だった。

　マイクロソフトのせいである。

　勝手に到来する更新何とやらが悪さをして、パソコンが働かなくなった。対応窓口に電話で聞いて復旧を図るうち、出荷時の状態へ戻す羽目に陥った。全データ消失で、電子郵便の山も住所録も何もかもなくなってしまった。

　病院さながら長時間待たされたうえ、機械にとんちんかんなのがおずおず操作するのだから大変である。一つをやり、電話を切り、次の作業でひっかかる。また電話する。待たされる。オフィス何とやらというパソコンの中に入っているやつを入れ替えたが、今度は原稿を書くのに使うワード何とやらが不調らしく文字が思うように記せない。

　ワープロ以来、長年キーボードで書いてきた。思えば、茫々半世紀近く以前、新聞に入ったころはざら紙に鉛筆だった。技術革新は筆法に及んだ。便利さに慣れて、今さら手で書くという動作に戻れない。引っ搔くように書くことの重要性をつとに強調する書家石川九楊に嗤われそうだが仕・・・