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連載

誤審のスポーツ史12

「引き分けねらい」は罪なのか
中村 計

2015年12月号

 戦略だったか、否か―。「誤審」かどうかを論じるのであれば、そこを考えなければならない。

 二〇一二年七月三十一日、ロンドン五輪の女子サッカー予選リーグ最終戦で「なでしこ」こと日本代表は南アフリカ代表と対戦した。一勝〇敗一引き分けと決勝トーナメント進出をほぼ当確にしていた日本は、この試合、格下相手の南アフリカに対し、七人の控え選手を先発に起用するなど、ベストからはほど遠い布陣で臨んだ。

 結果、見せ場さえつくれぬまま、0-0の引き分けに終わる。すると試合後、監督の佐々木則夫は、後半から意図的に引き分けをねらいにいったという意味の発言をした。いや、先発メンバーを見れば、最初から〝引き分け含み〟だったことは明らかだ。

 ただし、それは当然の策だった。予選リーグを突破し決勝トーナメントに進めるのは、各組上位二チームと、三位チームのうち成績上位の二チームの計八チーム。グループFに振り分けられていた日本は、一位通過を果たすと、三日後に控えた決勝トーナメントの準々決勝の試合会場はグラスゴーとなり、丸一日かけて移動しなければならない。・・・