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社会・文化

世界を魅了する「イチローズモルト」

小蒸留所が醸すウイスキーの「神秘」

2015年10月号

 和食がユネスコの世界遺産に登録されて、日本酒や国産ワインが注目されているが、世界のオークションで今、最も熱いのはジャパニーズ・モルトウイスキーだ。  オークションハウス「ボナムズ」が八月末に香港で開いたオークションで、二つの記録が生まれた。一つはメルシャンのルーツとなる大黒葡萄酒が軽井沢蒸留所で蒸留したモルト「軽井沢一九六〇年」。九十一万八千七百五十香港ドル(約一千四百三十万円)という日本ウイスキーとしては過去最高値で落札された。もう一つは埼玉・羽生市にあった東亜酒造の羽生蒸留所の原酒で仕込んだ「イチローズモルト」のカードシリーズ。全五十四本セットが、三百七十九万七千五百香港ドル(約五千九百二十万円)で落札された。一本百万円を超す勘定だ。日本ウイスキーのシリーズ物で最高価格の記録を作った。ウイスキーブームにわく東南アジアの買い手が電話で入札した。  実は、この二つの蒸留所はもう存在しない。希少性とともに、二度と世に出ないという事実が、愛好家のロマンを駆り立てる。軽井沢蒸留所は、メルシャンがキリンホールディングス傘下に入った後、二〇一二年に閉鎖された。半世紀前に仕込んだ在庫・・・