ここまできた「遺伝子ドーピング」
スポーツは「医学の競争」の時代に
2015年9月号
英紙サンデー・タイムズが八月二日に伝えた陸上トップ選手の大規模ドーピング疑惑の波紋が世界中に広がっている。二〇〇一年以降、陸上競技の五輪や世界選手権のメダルのうち百四十六個に薬物使用の疑いがあるというショッキングな内容で、中には日本人も含まれている。
近代スポーツの歴史はドーピングの歴史と言っても過言ではない。しかし、従来の禁止薬物を使った不正は早晩なくなるとみられている。それはアスリートが善良になるからではなく、「遺伝子ドーピング」の時代を迎えようとしているからにほかならない。
生殖細胞の遺伝子操作も可能
遺伝子ドーピングは、遺伝子治療の技術を「悪用」するものだ。ヒトの遺伝子には、人体の設計図となる情報が書かれている。その遺伝子に異常が生じると、設計図に間違いが起こり、正常な蛋白質が作られず病気を発症する。遺伝子治療は、異常な遺伝子を正常なものに置き換え病気を根本的に治療する技術だ。すでに世界中で臨床試験が行われており、実用間近になっている。遺伝子ドーピングでは、アスリートが欲しい遺伝子を体内に送り込み、元の遺伝子と置き換える。その後遺伝子は、ア・・・