財務次官・ 香川俊介の「殉職」
財政再建に命を賭した官僚の「心残り」
2015年9月号
「長く生きていたいです」―。友人のスマートフォンに送信した悲しいメールがあった。前財務事務次官香川俊介が発した心の叫びだった。メールが送信されたのはことしの大型連休。それからわずか約三カ月後の八月九日午後四時五分過ぎ、香川は東京・文京区の順天堂大学附属順天堂医院の病室で五十八歳の短い人生に幕を下ろした。香川を看取ったのは妻と三人の子どもたちだった。
翌日の朝刊で産経新聞が一面で香川の死を伝えた。一人の官僚OBの訃報としては異例の扱いと言えた。この記事を確認するように、その日の午前中に財務省から「弔事」の表題が付いたファクスが関係者に届いた。財務省の定型と思われる用紙はほとんど白紙に近かった。死亡時間、場所の記述なし。「葬儀等」の欄は「未定」と書かれ、「供花等」に関しては「固く辞退」とあるのみ。一切の弔意を排した無味乾燥の告知が逆に香川の壮烈な死を印象付けた。
各省庁も困ったのだろう。公共事業の主計官を務めた香川と縁の深かった国土交通省が発信した文書にその戸惑いが浮かび上がる。「香川俊介様のご逝去について」と題された文書はこう続く。
「表記につきましては、八月九日(・・・