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連載

日本の科学アラカルト 60

他分野との連携進む数学研究の最前線

2015年8月号

「紙と鉛筆があればいい」  時には億円単位の多額の研究予算が必要な理系分野において例外なのが数学だろう。ただし、純粋数学を含めて近年ではコンピューターが必要となるケースは多い。 「数学のノーベル賞」といわれるフィールズ賞。四十歳未満の数学者に贈られる賞で、日本人は過去に三人が受賞している。これはアジアでは突出した成果だ。日本人が得意とする分野の一つである数学においても、新たな研究が進められている。  数学はそれだけで完結する研究がある一方、他分野での応用が盛んに行われる。その代表例は暗号技術。数学者たちは純粋数学の研究対象である「素数」が、高度情報化社会になくてはならない暗号に使われることを予想していたわけではない。そういった意味で数学は多くの可能性を秘めている。  医療分野で期待を集めているのは、北海道大学数学連携研究センターが取り組む「インフルエンザウイルスの変異予測」だ。同大学人獣共通感染症リサーチセンターの伊藤公人教授による研究は、過去のインフルエンザウイルスの突然変異の時間発展を紐解いている。ウイルスのHA遺伝子について遺伝子間の「近さ」という概念を導・・・