中東外交の「黒子役」オマーン
イスラム宗派対立の「仲裁役」として
2015年8月号
「イランの核を巡る今回の『包括的共同行動計画』合意は、オマーンが仲介した秘密交渉なくして実現しなかったと言っても過言ではない」
中東取材を続けるジャーナリストはこう語る。イランの核兵器開発疑惑の発覚から十三年、実現性は未知数といわれるものの、欧米とイランの合意という一定の成果の影には、「中東のスイス」といわれるオマーンの存在があったという。同国は中東地域で極めて特殊な立ち位置にあり、今後イエメン紛争や、長引くシリア内戦の鍵を握る隠れた重要国だ。
イラン核合意の端緒を作る
湾岸協力会議(GCC)の創設メンバーであり、米国の庇護を受けるオマーンが、なぜイランとのパイプ役になれるのか。この理由を知るためには、オマーンの歴史、内情を振り返る必要があるだろう。
アラビア半島の先端、アラブ首長国連邦(UAE)が食い込む形で分断されたオマーンの国土は日本の八割ほど。「飛び地」となったムサンダム半島は、ホルムズ海峡に接する国際石油輸送の要衝である。中世には地域最大といわれたソハール港を拠点として、インド西海岸からアフリカ東海岸にいたるまでの広い地域と交易を行・・・