医療麻薬は「悪」ではない
「痛み緩和」欧米医療の最近事情
2015年8月号
トヨタ役員の密輸事件により、改めて犯罪と結び付けられた医療麻薬。問題が極度に矮小化されたことを、関西の開業医は嘆く。
「この報道以来、痛みに苦しむ患者が、医療麻薬を飲むと中毒になって死ぬと誤解し、治療を拒否するケースが出てきた。医療麻薬への偏見がさらに悪化した」
欧米社会では、痛みのケアである「疼痛管理」は医療の最も重要な課題であり、患者の基本的人権を守る行為という認識が浸透している。そのため医療麻薬に分類されるモルヒネやオキシコドンなどのオピオイド鎮痛薬が広く使われ、疼痛管理の鍵を握っている。この領域の世界的権威であるシドニー大学のマイケル・カズンズ教授は、痛みの緩和に失敗することは、「質の悪い医療」「非倫理的な医療」であり、「基本的人権の破棄」だと明言している。
例えば、がん患者に対する疼痛管理で使用されるモルヒネの年間消費量を比べてみよう。世界保健機関(WHO)のデータによると、二〇一二年の一人当たりのモルヒネの年間消費量は、世界平均が六・三ミリグラムであるのに対し、日本は約半分の三・二ミリグラムだ。トップのオーストリアは百九十九・二ミリグラム、米国は七十・・・