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社会・文化

過熱する美術品「返還請求」問題

厄介極まる「文化財ナショナリズム」

2015年6月号

「大英博物館やルーブル美術館から、強奪した美術品を除いたら空っぽになる」。かつて笑い話として言われていたことが、旧植民地国をはじめとする、いわゆる流出国の国々で、美術品をとり戻そうとする活動が活発になってきた現在、笑えない話になってきた。しかも活動の広がりは、正当に売買された文化財に対しても「原産国」への返還を主張するという、文化財ナショナリズムというべき現象に発展し、複雑な様相を呈している。日本もまた、この問題の加害者側に立たされている。  近年問題になってきたのは、海外で開催される展覧会である。文化財を、現所有国から展覧会を開催する他国に運び出す機会に、本来の所有者だと主張する国や団体が、文化財の差し押さえを求め、返還訴訟を起こす事例が頻出している。これまでのケースで提訴者の主張は認められていないが、しかし長引く訴訟は現所有者にとってリスクとなる。一九九四年以来、フランスをはじめ欧州各国が「差し押さえ防止法」を成立させているが、海外展を数多く開催する日本では、遅れて二〇一一年三月にようやく成立した。  日本での法整備の背景には、台湾・國立故宮博物院の展覧会を日本で開催し・・・