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連載

追想 バテレンの世紀  連載109

天草四郎という天使の出現
渡辺 京二

2015年4月号

 天使としての四郎の出現について、最も明白な証言を行っているのは、山田右衛門作である。投降後になされた「口上」によれば、この度の一揆の起こりは、大矢野千束島に住む五人の浪人がこの年の六月ごろから、次のような事を言い触らしたことにあるという。

 天草上島の上津浦に住んでいたバテレンが追放になる前に予言をした。当年より二六年目に善人一人世に現われるだろう。「そのおさなき子、習わざるに諸学をきわめ、天にしるしあらわるべし。木に饅頭なり、野山に白旗を立て、諸人の頭にクルスを立て、東西に雲の焼くる事あるべし。野も山も草も木も焼け」云々。

 今年はまさにその二六年目で、天草に大矢野四郎という一六歳の少年がいるが、バテレンの書き遺した予言書と照らし合わせると、「かの書物に少しもたがわず候あいだ、さては天使にて候わん、少しも疑いなし」。

 五人はそのように言いひろめて四郎を「たっとませ」たというのである。さらに彼らは一〇月一五日に「天地の動き候ほどの不思議なる事出来すべし」と宣伝したが、その通り十五日に島原でキリシタン立ち帰りが生じ、代・・・