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社会・文化

吉野の山「桜守」の物語

百年後の眺めを創る「芸術家」

2015年3月号

 春の足音が近づいてきた。「一目千本」を誇る大和の吉野の里が、淡紅色で満たされる日も遠くない。  吉野山の桜は白山桜である。山裾から下千本、中千本、上千本、奥千本と登っていく標高差六百メートルの山肌を、四月上旬~下旬にかけて咲き上がっていく。そのような山桜が一千三百年もの長きにわたって保護育成されているのは世界でも類例がないが、その陰には、先人の遺産を手塩にかけて守り育て続ける桜守の存在がある。  吉野山の常勤の桜守は二人。繁忙期には臨時職人が数名加わり、彼らが年間を通して桜の保全に努めている。担当範囲は六十ヘクタール近くある山のほぼ三分の二で、他は県有地のため県職員らが管理する。その二人の桜守は一杉甲子彦さんと紺谷與三一さん。六十三歳と八十歳。山仕事で鍛えた堅固な体默は年齢を感じさせない。日焼けした顔に刻み込まれた皺の中で柔和な目が輝いている。  一月中旬、小雪が舞い散る寒い日。作業着姿の二人は草刈り機を手に黙々と下草を刈っていた。静寂そのものの山中に機械音だけが鋭く響き、山奥を実感する。朴訥で寡黙な二人だが、桜守の苦労や喜びを語り始めた。 絶え間のない手入れ・・・