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連載

皇室の風78

『実録』が避けた制憲過程
岩井 克己

2015年2月号

 憲法を「占領軍の押し付け」と声高に叫ぶ言説が後を絶たない。

 改正に政治生命をかけると自他ともに認める安倍晋三首相が、戦後憲法学の泰斗芦部信喜の名を国会で問われ「存じ上げません。クイズのような質問はやめてもらいたい」と開き直ったのには驚いた。天皇機関説排撃を叫んだ政治家が美濃部達吉の名前すら知らなかったに均しいのではないか。

 かつての改正派憲法学者の旗頭・小林節慶應義塾大学名誉教授が護憲に「転向」したのは、改正派の政治家たちに接して「改正前でも後でも、もともと憲法を尊重する気などない」と感じたためと仄聞する。

『昭和天皇実録』を読んで、肝心のことが書かれていないと不満が残る巻のひとつが巻三十五、昭和二十一年の憲法制定過程の記述である。

 同年二月七日、昭和天皇は憲法改正担当国務大臣松本烝治から約二時間にわたり「憲法改正要綱」(いわゆる甲案)「改正案」(乙案)等の奏上を受けた。松本案の旧態依然ぶりに天皇が違和感を示したと『実録』は記す。

「九日午前、改めて松本を表拝謁ノ間にお・・・