「首切り」請負会社 パソナの悪行
正規雇用「撲滅」を目指す亡国企業
2015年2月号公開
ほとんど記憶にないだろうが、昨秋の臨時国会で与野党が衝突して議事進行を停滞させたのは、「労働者派遣法改正案」だった。企業による派遣労働者利用上限(三年)を事実上撤廃する「永久派遣法」を推し進めていたのは、政府の産業競争力会議の議員で、人材派遣大手「パソナグループ」の取締役会長を務める竹中平蔵だった。上限がなくなれば、パソナはこれまで以上に荒稼ぎすることができる。この露骨な我田引水は阻止されたわけではなく、引き続き通常国会で審議される。
パソナが掲げる「雇用の流動化」によるビジネスは、蓋を開ければかつては暴力団が跋扈した口入れと同様の労働者搾取にほかならない。雇用が不安定になればなるほど儲かるパソナは、悪名高い「追い出し部屋」でも暗躍していることはあまり知られていない。
「追い出し部屋」へも関与
「正社員をなくしましょうと言わなきゃならない」
大晦日から年明けにかけて放送された民放討論番組で、竹中はこう言い放った。「日本の正社員は保護されすぎ」という聞き飽きたフレーズに続けて、日本から正社員を根絶するという暴論を吐いたのである。会長の言葉を具現化するように、パソナは派遣だけでなく、正社員の首切りの現場でも儲けている。
昨年夏、「公立学校共済組合」という団体が経営する、ホテルフロラシオン青山を昨年内で閉鎖することを決めた。同組合が文部科学省官僚の天下り先であることや、共済組合がホテルを運営する是非についてはここでは措く。
問題は突如として職場を失った同ホテル従業員だ。天下りではない大部分の従業員は、一般の労働者と変わりない。突然の通告に動揺する従業員に対して、共済組合側が解雇の代償として唯一提示したのがパソナを通じた再就職支援だった。不安な従業員が集まった説明会に現れたのは、パソナの五十代の社員一人だった。同ホテルの元職員が語る。
「パソナはホテル業界の求人案件をほとんど持っていなかった」
せめてホテルで就業した経験を生かせる再就職先を望んでいた従業員たちは、パソナがそうした求人を提案しなかったことに失望したという。最終的に従業員は、東京東部労働組合に加入して共済組合側と交渉し、雇用確保、もしくは別の就労斡旋を含む解決の道を得た。
パソナがやっているのは解雇者への就業斡旋だけではない。「肩叩き」の手助けをも行うが、そのやり口が悪辣だ。
官民ファンド・産業革新機構の支援を受けているルネサスエレクトロニクスでは、現在、冷酷なリストラが続いている。執拗な面談で対象社員を追い込んでいくが、拒否する従業員の中には、それまでではありえなかった遠距離の勤務地変更を命じられたケースもある。子育て中の女性社員が、新幹線や高速道路を使った通勤を強いられているといい、心身ともに追い詰められる者が出ている。
こうしたリストラ対象者に追い打ちをかけるのが、会社側が受けるように勧めるパソナなど人材会社の「キャリア相談」だ。リストラ問題に詳しい労組関係者が語る。
「社員のプライドを粉々にしておいて、『キャリアを生かすのが転職です』と水を向けるのが定番の手口で、退職を決断させる」
心理テストなどを用いて相談者の「自己診断」と見せかけて、「今の会社を辞めて転職すべき」という結論を導くのも常套手段だ。岐路に立つリストラ対象者を騙しているといっても過言ではない。
こうしたリストラへの加担を、パソナは「アウトプレースメント」と呼ぶ。同社はこの事業を「人材を送り出す企業に代わり、その人材のキャリアを壓ぎ、次のステージへの実現を支援するサービス」と謳う。聞こえのいい言葉が並んでいるが、要するにリストラの代行である。しかも「パソナは右手で首を切り、左手で受け皿を作って両方で儲けている」(業界関係者)。まさに労働者を喰い物にしている企業なのだ。
パソナは悪名高い「追い出し部屋」への直接関与をも辞さない。同社は追い出し部屋のアウトソースを請け負っている。舞台となるのは「日本雇用創出機構」。一見すると公的機関であるかのような名前だが、実際には株式会社でパソナの子会社だ。取締役会長はパソナ創業者の南部靖之。出資者(株主)にはリコーやソニーなど、乱暴なリストラが社会問題化した企業が並んでいる。
富士電機の子会社でリストラが行われた際、ある男性社員は突然、関東雇用創出機構(日本雇用創出機構の前身)への出向を命じられた。出向先での業務は「転職先を探すこと」で、給料は同子会社から出るものの半年の期間を区切られた片道切符だった。オフィスでは机とパソコンが与えられ、履歴書の書き方が指導される程度。あとは自力で再就職先を探すしかなかったと男性は振り返る。この「外部追い出し部屋」ともいうべきビジネスをパソナは「人材ブリッジバンク」と称している。
パソナ栄えて国滅ぶ
要するに近年問題となるリストラ案件のあらゆる場面で、パソナは陰に陽に介在している。リストラを実施する企業だけが批判に晒されるが、実はコンサルタント名目で、多くの現場で手ほどきをしているのはパソナなのだ。
もちろん、人材コンサルタントを生業にする企業はパソナだけではない。似たような事業を手掛ける人材サービス会社があるのも事実だ。それでもパソナは悪質だと厚生労働省幹部が声を潜める。
「南部氏は政界に食い込み、竹中会長に至っては政府の雇用政策に直接関与している」
昨年芸能人の覚醒剤事件を巡って、南部が政治家を専用の施設で接待していたことが明るみに出た。
竹中は産業競争力会議で「雇用調整助成金を減らして、労働移動に助成金を出すことは大変重要」と発言している。雇用調整助成金は雇用を維持した中小企業への補助金だが、二〇一四年度は、前年度比半分以下の五百四十五億円に減額された。一方で、首切り企業への助成金は一五年度予算で三百一億円が計上されている。三年前には二・四億円にすぎなかったこの予算が爆発的に増えた原因は、もはや言うまでもないだろう。
「十年後には雇用なんて言葉はなくなっていますよ、(派遣会社は)二十年後には日本の基幹産業になっているでしょう」
〇一年に南部は新聞のインタビューでこう語っている。十四年が経過していまだ正社員は残っているものの、その割合は減少を続け、南部の理想に着実に近づいている。雇用の不安定化が晩婚化と少子化の大きな要因であることは論を俟たない。パソナ栄えて国滅ぶ――。政財界はこの企業の跋扈が本当に国の未来のためなのか考えるべきだろう。(敬称略)
パソナが掲げる「雇用の流動化」によるビジネスは、蓋を開ければかつては暴力団が跋扈した口入れと同様の労働者搾取にほかならない。雇用が不安定になればなるほど儲かるパソナは、悪名高い「追い出し部屋」でも暗躍していることはあまり知られていない。
「追い出し部屋」へも関与
「正社員をなくしましょうと言わなきゃならない」
大晦日から年明けにかけて放送された民放討論番組で、竹中はこう言い放った。「日本の正社員は保護されすぎ」という聞き飽きたフレーズに続けて、日本から正社員を根絶するという暴論を吐いたのである。会長の言葉を具現化するように、パソナは派遣だけでなく、正社員の首切りの現場でも儲けている。
昨年夏、「公立学校共済組合」という団体が経営する、ホテルフロラシオン青山を昨年内で閉鎖することを決めた。同組合が文部科学省官僚の天下り先であることや、共済組合がホテルを運営する是非についてはここでは措く。
問題は突如として職場を失った同ホテル従業員だ。天下りではない大部分の従業員は、一般の労働者と変わりない。突然の通告に動揺する従業員に対して、共済組合側が解雇の代償として唯一提示したのがパソナを通じた再就職支援だった。不安な従業員が集まった説明会に現れたのは、パソナの五十代の社員一人だった。同ホテルの元職員が語る。
「パソナはホテル業界の求人案件をほとんど持っていなかった」
せめてホテルで就業した経験を生かせる再就職先を望んでいた従業員たちは、パソナがそうした求人を提案しなかったことに失望したという。最終的に従業員は、東京東部労働組合に加入して共済組合側と交渉し、雇用確保、もしくは別の就労斡旋を含む解決の道を得た。
パソナがやっているのは解雇者への就業斡旋だけではない。「肩叩き」の手助けをも行うが、そのやり口が悪辣だ。
官民ファンド・産業革新機構の支援を受けているルネサスエレクトロニクスでは、現在、冷酷なリストラが続いている。執拗な面談で対象社員を追い込んでいくが、拒否する従業員の中には、それまでではありえなかった遠距離の勤務地変更を命じられたケースもある。子育て中の女性社員が、新幹線や高速道路を使った通勤を強いられているといい、心身ともに追い詰められる者が出ている。
こうしたリストラ対象者に追い打ちをかけるのが、会社側が受けるように勧めるパソナなど人材会社の「キャリア相談」だ。リストラ問題に詳しい労組関係者が語る。
「社員のプライドを粉々にしておいて、『キャリアを生かすのが転職です』と水を向けるのが定番の手口で、退職を決断させる」
心理テストなどを用いて相談者の「自己診断」と見せかけて、「今の会社を辞めて転職すべき」という結論を導くのも常套手段だ。岐路に立つリストラ対象者を騙しているといっても過言ではない。
こうしたリストラへの加担を、パソナは「アウトプレースメント」と呼ぶ。同社はこの事業を「人材を送り出す企業に代わり、その人材のキャリアを壓ぎ、次のステージへの実現を支援するサービス」と謳う。聞こえのいい言葉が並んでいるが、要するにリストラの代行である。しかも「パソナは右手で首を切り、左手で受け皿を作って両方で儲けている」(業界関係者)。まさに労働者を喰い物にしている企業なのだ。
パソナは悪名高い「追い出し部屋」への直接関与をも辞さない。同社は追い出し部屋のアウトソースを請け負っている。舞台となるのは「日本雇用創出機構」。一見すると公的機関であるかのような名前だが、実際には株式会社でパソナの子会社だ。取締役会長はパソナ創業者の南部靖之。出資者(株主)にはリコーやソニーなど、乱暴なリストラが社会問題化した企業が並んでいる。
富士電機の子会社でリストラが行われた際、ある男性社員は突然、関東雇用創出機構(日本雇用創出機構の前身)への出向を命じられた。出向先での業務は「転職先を探すこと」で、給料は同子会社から出るものの半年の期間を区切られた片道切符だった。オフィスでは机とパソコンが与えられ、履歴書の書き方が指導される程度。あとは自力で再就職先を探すしかなかったと男性は振り返る。この「外部追い出し部屋」ともいうべきビジネスをパソナは「人材ブリッジバンク」と称している。
パソナ栄えて国滅ぶ
要するに近年問題となるリストラ案件のあらゆる場面で、パソナは陰に陽に介在している。リストラを実施する企業だけが批判に晒されるが、実はコンサルタント名目で、多くの現場で手ほどきをしているのはパソナなのだ。
もちろん、人材コンサルタントを生業にする企業はパソナだけではない。似たような事業を手掛ける人材サービス会社があるのも事実だ。それでもパソナは悪質だと厚生労働省幹部が声を潜める。
「南部氏は政界に食い込み、竹中会長に至っては政府の雇用政策に直接関与している」
昨年芸能人の覚醒剤事件を巡って、南部が政治家を専用の施設で接待していたことが明るみに出た。
竹中は産業競争力会議で「雇用調整助成金を減らして、労働移動に助成金を出すことは大変重要」と発言している。雇用調整助成金は雇用を維持した中小企業への補助金だが、二〇一四年度は、前年度比半分以下の五百四十五億円に減額された。一方で、首切り企業への助成金は一五年度予算で三百一億円が計上されている。三年前には二・四億円にすぎなかったこの予算が爆発的に増えた原因は、もはや言うまでもないだろう。
「十年後には雇用なんて言葉はなくなっていますよ、(派遣会社は)二十年後には日本の基幹産業になっているでしょう」
〇一年に南部は新聞のインタビューでこう語っている。十四年が経過していまだ正社員は残っているものの、その割合は減少を続け、南部の理想に着実に近づいている。雇用の不安定化が晩婚化と少子化の大きな要因であることは論を俟たない。パソナ栄えて国滅ぶ――。政財界はこの企業の跋扈が本当に国の未来のためなのか考えるべきだろう。(敬称略)
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