日本郵政の病根「JP労組」
利権貪る「労働貴族」たちの実態
2014年12月号公開
突如として衆議院が解散され、選挙に突入した。折しも、小泉純一郎首相(当時)が郵政民営化の是非を問い突然の衆院解散に踏み切ってから、来年でちょうど十年が経過する。日本郵政を語る際に批判されるのは、官僚や政治家、時の経営者や全国特定郵便局長会(全特)というのが定番だ。しかし、日本郵政内部には強大な権力を持つ集団が巣食っている。単一企業としては日本最大の二十四万人もの組合員を抱える日本郵政グループ労働組合(JP労組)だ。この労組は巨大な利権団体である一方、守るべき組合員を会社と一体となって追い詰めるという日本郵政を歪めてきた戦犯の一員だ。その実態と現在進行形の重大なコンプライアンス違反を暴露する。
年賀はがき「自爆営業」に加担
来年秋を見据えて準備が進められている日本郵政の上場は果たして順調に進むのか。十一月十四日に発表された日本郵政の一翼を担う日本郵便の二〇一五年三月期中間決算は上場に向けた同社の意気込みに水を差す内容だった。計上した純利益はマイナス三百八十六億円。赤字額は昨年同期と比べて十倍以上になった。郵便配達の現場における非効率ぶりは相変わらずのようだ。
JP労組組合員のうち二十二万人は日本郵便に所属しており、組織率も九〇%を誇る。ここが諸悪の根源となっている。
年賀状発売を数日後に控えた十月末、日本郵政内部で開かれた会合で同社幹部が「自爆は絶対にさせない。来年に予定している上場の阻害要因になるからだ」と話した。毎年この時期になると繰り返される年賀はがきの「自爆営業」。販売ノルマを達成できなかった局員が、売れなかった年賀はがきを自腹で購入することだ。そこで、出席していた関係者が埼玉県内の大型郵便局であるA局の話をぶつけると、出席していた幹部らの顔が引きつった。
十月下旬、A局で局内の切手庫と呼ばれる倉庫に保管してあった発売前の年賀はがきの一部が、何者かによって持ち出された。運び出されたはがきは、なぜか切手庫の向かいにあるJP労組の組合室に置かれていた。一時山積みとなっていたはがきはその後組合室からも消えていった。
消えたはがきは金券ショップに持ち込まれた、とされる。日本郵便がコンプライアンス違反として禁じている行為だ。そもそも勝手に切手庫からはがきを持ち出した時点で、重大な違反である。
本誌が独自に入手した「年賀状個人別注文」という内部資料によると、A局では一人当たり三千五百-五千枚の「目標」が指定してあった。そして十月中旬に突如としてA局内の多数のJP労組組合員について一斉に一人二千枚の「予約」が入っている。
組合室に持ち込まれたのはこのはがきだったのだ。局内では一般に営業活動によって販売されたことになっており、A局は発売直後に販売目標の二五%を達成した。これらの多くが実際には金券ショップで現金化され、差額をそれぞれの組合員が自腹で補って売り上げにしたのだろう。A局関係者が語る。
「うちの区域でいまどき二千枚なんて捌けない。ほとんどが自爆だろう。労組の支部役員のほか、最近(配達中の)誤配や交通事故を起こした人などに優先的に割り当てたようだ」
問題は風物詩にさえなっている自爆営業そのものではない。会社によるノルマ強制が問題となっていた年賀はがき販売に、労組が積極的に加担していることが明らかになったことだ。取材を進めると、JP労組の持つ病理が浮き彫りになった。
JP労組が発足したのは民営化時の二〇〇七年。それまで対立してきた左派の日本郵政公社労働組合(旧全逓)と、右派の全日本郵政労働組合(全郵政)の合流によって実現した。前者は日本労働組合総評議会(総評)、後者は全日本労働総同盟(同盟)の傘下団体だった。
全逓は総評内部でも「権利の全逓」と呼ばれるアグレッシブな組合だったが、実は「利権の全逓」というもう一つの顔も持っていた。元全逓活動家が振り返る。
「うちの局は全郵政と組合員数が拮抗していたので、新入局員の奪い合いになった。その獲得のために組織対策費というカネが上から支給された」
上層部からは「寿司でもうなぎでも食わせて組合に入れろ」と号令が飛んでいたという。その原資は組合費だが、全逓は一万円くらい飲ませてもすぐに元が取れた。全逓時代のカネにまつわる話には事欠かない。あるとき支部に五十万円ほど支給されるはずだった対策費が待てど暮らせど届かなかった。支部の幹部に聞くと、「我慢しろ」と言われ、地方本部の幹部の名を挙げ遊興費に消えたことを打ち明けられた。「その幹部のうちの一人は現在のJP労組本部の役員になった」(前出元活動家)という。この体質と利権は合併した後も受け継がれている。
専従職員の恵まれた待遇
専従は三日やったら辞められない―。会社の仕事を離れ、JP労組本部で働く専従役員の待遇がいかに恵まれているかを物語る言い回しだ。
本誌は、今年六月に愛知県内で開かれたJP労組第七回定期全国大会のために作成された予算資料を入手した。そこでは「貴重な組合費であることを念頭に置き効率的・効果的な予算執行」をすると謳っている。内訳をみると総収入は年間百五億円にも上る。専従役員の給与である「中央本部諸給与」は五十七人で約六億円。一人当たり一千万円になる。委員長ともなれば二千万円近くもらえるという。
日本郵政全社員の平均年収は六百六万円(一二年度)。これは管理職も含めた平均であり、専従がいかに恵まれているかがよく分かる。巨大組合とはいえ五十七人もの専従ポストは多過ぎだが、母体となった二団体が合併した際「対等合併を強調しそれぞれの専従をそのまま残したために膨れ上がった」(日本郵便関係者)という。JP労組も加盟する連合の関係者は「JP労組の専従は大卒社員が上り詰めて得られる給与をとっている。公務員準拠というがそれより高い」と語り、こう苦言を呈する。
「労働金庫など外郭団体の役員になればそっちからも給料が入る。全逓時代はそれでも闘っていたが、いまは会社とべったりだからいくらでもカネが入る」
合併により組合員獲得合戦は不要になったが、いまだに遊興費が浪費されるケースが後を絶たない。合併後にJP労組新宿支部で書記次長、組織部長、会計担当の三人が組合費を使い込んだ際にはさすがに問題となり、四百八十三万円を弁済することになった。ただし、組合は三人を除名せず、会社側が他局に異動させただけで幕引きとなった。これより少額であれば同種の噂はめずらしくないというから、専従はもちろん各支部の幹部にとって活動費は甘い汁というわけだ。
原資となる組合費は二十歳未満の正社員で年間四万円弱。年齢によって上がり、五十歳の組合員は六万円近くを納めている。時給制契約社員やパートも加入でき、一万二千円を徴収される。前出とは別の日本郵便関係者がこう漏らす。
「組合が頼りになるならいいが、非正規職員が相談しても何もしてくれない」
それどころか上司から受けたパワハラを相談したら、その日のうちに会社側に筒抜けになっていたこともあるという。世に「御用組合」と呼ばれる労組は数多ある。ただその多くは組合が弱く経営に隷属した結果ともいえる。しかし、JP労組の場合は自爆営業への加担など、組合員に不当な負担を強いている点で罪深い。
二〇一〇年に自殺したさいたま新都心局の職員の裁判では、ノルマ達成ができなかった場合に吊し上げが行われる「お立ち台」が問題となっている。当時現場の九割以上を占めていたはずの組合員はこのいじめに与していたのだ。そんな組合に嫌気がさしても、抜けると言った途端、取り囲まれて脅されるケースまであるという。
組合幹部の「天下り先」も確保
JP労組のもうひとつの利権は、会社と結託した、専従役員の天下りポストの確保だ。その一つが日本郵便輸送。大型トラックで郵便局間を壓ぐ「運送便」と、軽自動車や一トン車でポストから郵便物を集める「取集便」などを事業にしている。日本郵便輸送の本庄吉幸社長は、二〇〇六年に旧全逓からの天下りで同社常務に就任した。常務時代には労組出身者でありながら、大規模リストラを主導し、社長ポストを射止めたという。
一般財団法人「郵政福祉」にもJP労組幹部の指定席が用意されている。現在は常務理事と常勤監査役の二人がJP労組出身者だ。この財団法人は、郵政互助会、郵政弘済会、郵政福祉協会が合併したもので、組合員の保険事業などを取り扱っている。
これだけでかい図体ながら、JP労組の集票力は弱い。かつては全逓、全郵政ともに組織内候補を国会に送り込んできたが、昨年行われた参議院議員選挙では比例区で擁立した定光克之氏があっさり落選した。しかもその得票数は十二万票余り。どれだけ上積みできるかが問われる労組選挙で、組合員数の半数しか獲得できないようでは話にならない。組合員のために働かぬ労組が立てた候補に、誰が投票するのか、ということだ。
JP労組はこうした組合員の人心離反に危機感は持っているようだ。前出連合関係者が語る。
「社員を全員組合員とするユニオンショップ制導入を狙っている」
ただしこれも組合員のためではなく、今後も会社と二人三脚で甘い汁を吸うために他ならない。JP労組はいっそ労働組合の看板を下ろした方がよさそうだ。
年賀はがき「自爆営業」に加担
来年秋を見据えて準備が進められている日本郵政の上場は果たして順調に進むのか。十一月十四日に発表された日本郵政の一翼を担う日本郵便の二〇一五年三月期中間決算は上場に向けた同社の意気込みに水を差す内容だった。計上した純利益はマイナス三百八十六億円。赤字額は昨年同期と比べて十倍以上になった。郵便配達の現場における非効率ぶりは相変わらずのようだ。
JP労組組合員のうち二十二万人は日本郵便に所属しており、組織率も九〇%を誇る。ここが諸悪の根源となっている。
年賀状発売を数日後に控えた十月末、日本郵政内部で開かれた会合で同社幹部が「自爆は絶対にさせない。来年に予定している上場の阻害要因になるからだ」と話した。毎年この時期になると繰り返される年賀はがきの「自爆営業」。販売ノルマを達成できなかった局員が、売れなかった年賀はがきを自腹で購入することだ。そこで、出席していた関係者が埼玉県内の大型郵便局であるA局の話をぶつけると、出席していた幹部らの顔が引きつった。
十月下旬、A局で局内の切手庫と呼ばれる倉庫に保管してあった発売前の年賀はがきの一部が、何者かによって持ち出された。運び出されたはがきは、なぜか切手庫の向かいにあるJP労組の組合室に置かれていた。一時山積みとなっていたはがきはその後組合室からも消えていった。
消えたはがきは金券ショップに持ち込まれた、とされる。日本郵便がコンプライアンス違反として禁じている行為だ。そもそも勝手に切手庫からはがきを持ち出した時点で、重大な違反である。
本誌が独自に入手した「年賀状個人別注文」という内部資料によると、A局では一人当たり三千五百-五千枚の「目標」が指定してあった。そして十月中旬に突如としてA局内の多数のJP労組組合員について一斉に一人二千枚の「予約」が入っている。
組合室に持ち込まれたのはこのはがきだったのだ。局内では一般に営業活動によって販売されたことになっており、A局は発売直後に販売目標の二五%を達成した。これらの多くが実際には金券ショップで現金化され、差額をそれぞれの組合員が自腹で補って売り上げにしたのだろう。A局関係者が語る。
「うちの区域でいまどき二千枚なんて捌けない。ほとんどが自爆だろう。労組の支部役員のほか、最近(配達中の)誤配や交通事故を起こした人などに優先的に割り当てたようだ」
問題は風物詩にさえなっている自爆営業そのものではない。会社によるノルマ強制が問題となっていた年賀はがき販売に、労組が積極的に加担していることが明らかになったことだ。取材を進めると、JP労組の持つ病理が浮き彫りになった。
JP労組が発足したのは民営化時の二〇〇七年。それまで対立してきた左派の日本郵政公社労働組合(旧全逓)と、右派の全日本郵政労働組合(全郵政)の合流によって実現した。前者は日本労働組合総評議会(総評)、後者は全日本労働総同盟(同盟)の傘下団体だった。
全逓は総評内部でも「権利の全逓」と呼ばれるアグレッシブな組合だったが、実は「利権の全逓」というもう一つの顔も持っていた。元全逓活動家が振り返る。
「うちの局は全郵政と組合員数が拮抗していたので、新入局員の奪い合いになった。その獲得のために組織対策費というカネが上から支給された」
上層部からは「寿司でもうなぎでも食わせて組合に入れろ」と号令が飛んでいたという。その原資は組合費だが、全逓は一万円くらい飲ませてもすぐに元が取れた。全逓時代のカネにまつわる話には事欠かない。あるとき支部に五十万円ほど支給されるはずだった対策費が待てど暮らせど届かなかった。支部の幹部に聞くと、「我慢しろ」と言われ、地方本部の幹部の名を挙げ遊興費に消えたことを打ち明けられた。「その幹部のうちの一人は現在のJP労組本部の役員になった」(前出元活動家)という。この体質と利権は合併した後も受け継がれている。
専従職員の恵まれた待遇
専従は三日やったら辞められない―。会社の仕事を離れ、JP労組本部で働く専従役員の待遇がいかに恵まれているかを物語る言い回しだ。
本誌は、今年六月に愛知県内で開かれたJP労組第七回定期全国大会のために作成された予算資料を入手した。そこでは「貴重な組合費であることを念頭に置き効率的・効果的な予算執行」をすると謳っている。内訳をみると総収入は年間百五億円にも上る。専従役員の給与である「中央本部諸給与」は五十七人で約六億円。一人当たり一千万円になる。委員長ともなれば二千万円近くもらえるという。
日本郵政全社員の平均年収は六百六万円(一二年度)。これは管理職も含めた平均であり、専従がいかに恵まれているかがよく分かる。巨大組合とはいえ五十七人もの専従ポストは多過ぎだが、母体となった二団体が合併した際「対等合併を強調しそれぞれの専従をそのまま残したために膨れ上がった」(日本郵便関係者)という。JP労組も加盟する連合の関係者は「JP労組の専従は大卒社員が上り詰めて得られる給与をとっている。公務員準拠というがそれより高い」と語り、こう苦言を呈する。
「労働金庫など外郭団体の役員になればそっちからも給料が入る。全逓時代はそれでも闘っていたが、いまは会社とべったりだからいくらでもカネが入る」
合併により組合員獲得合戦は不要になったが、いまだに遊興費が浪費されるケースが後を絶たない。合併後にJP労組新宿支部で書記次長、組織部長、会計担当の三人が組合費を使い込んだ際にはさすがに問題となり、四百八十三万円を弁済することになった。ただし、組合は三人を除名せず、会社側が他局に異動させただけで幕引きとなった。これより少額であれば同種の噂はめずらしくないというから、専従はもちろん各支部の幹部にとって活動費は甘い汁というわけだ。
原資となる組合費は二十歳未満の正社員で年間四万円弱。年齢によって上がり、五十歳の組合員は六万円近くを納めている。時給制契約社員やパートも加入でき、一万二千円を徴収される。前出とは別の日本郵便関係者がこう漏らす。
「組合が頼りになるならいいが、非正規職員が相談しても何もしてくれない」
それどころか上司から受けたパワハラを相談したら、その日のうちに会社側に筒抜けになっていたこともあるという。世に「御用組合」と呼ばれる労組は数多ある。ただその多くは組合が弱く経営に隷属した結果ともいえる。しかし、JP労組の場合は自爆営業への加担など、組合員に不当な負担を強いている点で罪深い。
二〇一〇年に自殺したさいたま新都心局の職員の裁判では、ノルマ達成ができなかった場合に吊し上げが行われる「お立ち台」が問題となっている。当時現場の九割以上を占めていたはずの組合員はこのいじめに与していたのだ。そんな組合に嫌気がさしても、抜けると言った途端、取り囲まれて脅されるケースまであるという。
組合幹部の「天下り先」も確保
JP労組のもうひとつの利権は、会社と結託した、専従役員の天下りポストの確保だ。その一つが日本郵便輸送。大型トラックで郵便局間を壓ぐ「運送便」と、軽自動車や一トン車でポストから郵便物を集める「取集便」などを事業にしている。日本郵便輸送の本庄吉幸社長は、二〇〇六年に旧全逓からの天下りで同社常務に就任した。常務時代には労組出身者でありながら、大規模リストラを主導し、社長ポストを射止めたという。
一般財団法人「郵政福祉」にもJP労組幹部の指定席が用意されている。現在は常務理事と常勤監査役の二人がJP労組出身者だ。この財団法人は、郵政互助会、郵政弘済会、郵政福祉協会が合併したもので、組合員の保険事業などを取り扱っている。
これだけでかい図体ながら、JP労組の集票力は弱い。かつては全逓、全郵政ともに組織内候補を国会に送り込んできたが、昨年行われた参議院議員選挙では比例区で擁立した定光克之氏があっさり落選した。しかもその得票数は十二万票余り。どれだけ上積みできるかが問われる労組選挙で、組合員数の半数しか獲得できないようでは話にならない。組合員のために働かぬ労組が立てた候補に、誰が投票するのか、ということだ。
JP労組はこうした組合員の人心離反に危機感は持っているようだ。前出連合関係者が語る。
「社員を全員組合員とするユニオンショップ制導入を狙っている」
ただしこれも組合員のためではなく、今後も会社と二人三脚で甘い汁を吸うために他ならない。JP労組はいっそ労働組合の看板を下ろした方がよさそうだ。
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