三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

追想 バテレンの世紀 連載104

苦心を重ねる蘭日貿易
渡辺 京二

2014年11月号

 ノイツは平戸の民家に監禁されたが、商舘員の出入りは自由で、本人は家具や衣服を商舘の勘定で買い放題、ついに商舘側は贅沢禁止を彼に申し渡さねばならなかった。息子を死なせたというのに、向こう意気は衰えなかったのだ。

 ナイエンローデの死のあと、サンテンが一時代りを勤めたが一六三三年九月、ニコラス・クーケバッケルが新商舘長として着任した。まるまる四年以上停止していた対日貿易が再開されたというものの、平戸商舘はまだ難しい問題をいくつも抱えていた。クーケバッケルは日本通のカロンとともに困難と取り組むことになる。

 まず平戸侯隆信との関係があった。抑留解除の功績を自負する隆信はその見返りを求めて、借金その他の要求を加重し、クーケバッケルはその対応に苦しんだ。さらにパンカド適用とオランダ船出帆時期という、オランダ側が最も不満とするふたつの問題の解決に腐心せねばならなかった。

 パンカドとはポルトガル船に適用されて来た輸入生糸の一括購入制で、価格もその際きめられる。オランダ船のもたらす生糸はその適用を免れていた。というのは二〇年代の前半・・・