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連載

追想 バテレンの世紀 連載102

事件後のオランダの苦境
渡辺 京二

2014年9月号

 ムイゼル以下、オランダの囚われびとたちは末次平蔵のもとで、厳しい監禁生活を送ることになった。長崎奉行水野守信はこの件に関与せず、一切平蔵に任せきりである。平蔵はタイオワンのオランダ人が朱印状の権威を犯して日本人を抑留したこと、新港住民を投獄し、将軍の下賜品を取りあげたことを非難し、弁明があれば江戸の閣老に取り次ぐという。自分たちは彌兵衛らの帰船の安全のためにやって来ただけで、そんなことを議論する任務は受けていないと言っても、一切無効である。

 長崎の町にはキリシタン迫害の嵐が吹き荒れていた。監禁されて六日目、八月一日の日記にムイゼルは、信者は四日までに棄教を申し出よ、以降捕えられた者はすべて火あぶりに処すという布告が出され、信者たちは「家・財産等すべてを捨てて逃げ、町には人影もなくなり、非常な荒廃を呈している」と記している。

 ムイゼルらの宿舎は厳しい監視下にあったが、彼は番人を買収し、やっと平戸のナイエンローデと連絡がついた。彼の手紙では平戸商舘も人の出入りが禁止され、一切の取り引きは停止、入港したオランダ船も積み荷もおろせず抑留されてい・・・