三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

皇室の風 73

『独白録』ふたつの「結論」
岩井 克己

2014年9月号

『昭和天皇実録』が八月二十一日に天皇に奉呈された。全六十一冊一万二千ページ。昭和史の最大の基礎資料となる「正史」が戦後七十年となる来年から順次公刊され、昭和史が見直される意義は計り知れない。

 ただ、天皇の〝肉声〟のまとまった記録は、いずれも封印されたか「所在不明」で、この「正史」でも盛り込めなかったという。

 天皇本人の自筆の日記は香淳皇后の陵に副葬された。入江相政侍従長の『聖談拝聴録』は表御服所地下の革製金庫ごと所在不明だ。

 一九四六年に側近五人で聴取した『独白録』だけは宮内省御用掛寺崎英成の遺族から公開された。

 しかし、これとても元侍従長徳川義寛は「原本とは違う」「原本が世に出ることはないでしょう」と語り、間もなく死去。その「原本」は所在不明だ。

 五人組の聴取は同年三月十八日から四月八日まで五回計八時間に及んだ。マッカーサーの副官ボナー・フェラーズ准将が東京裁判で天皇を戦犯訴追から守るための「理論武装」として寺崎らに要請したもので、聴取は一日を争うものだった。寺崎が・・・