不運の名選手たち 57
淺瀬川(大相撲力士)平幕止まりの小兵がつかんだ「大金星」
中村 計
2014年9月号
元力士の面影は、もはやまったくなくなっていた。
身長百七十四センチ、体重七十キロちょっと。現役時代、百四十キロ近くあった淺瀬川の体重は、約半分になっていた。
「やめたら十キロ、二十キロって、あっという間に減っていった。練習量で維持していただけだから」
インタビューは自ら経営するちゃんこ鍋屋「浅瀬川」の店内で行われた。二十数年前に緑内障を患い、視力を失った淺瀬川は、室内であるにもかかわらずサングラスをかけていた。
「そこに写真があるでしょ?」
店内の隅を顎でしゃくる。そこには額縁に入った大きな白黒写真が掲げてあった。淺瀬川が、自分よりはるかに大きな力士を今まさに寄り切ろうとしている瞬間の写真だ。相手は史上最多となる三十二回の優勝を誇り、今も「戦後最強の横綱」と讃えられる大鵬だ。
「偶然、右四つになったんだよ。大鵬さんはそんなこと滅多にしないのに、最初、頭をはたいてきた。そうしたら、右(手)がすっと入ったの。たまたまだよ」
右四つとは右で下・・・
身長百七十四センチ、体重七十キロちょっと。現役時代、百四十キロ近くあった淺瀬川の体重は、約半分になっていた。
「やめたら十キロ、二十キロって、あっという間に減っていった。練習量で維持していただけだから」
インタビューは自ら経営するちゃんこ鍋屋「浅瀬川」の店内で行われた。二十数年前に緑内障を患い、視力を失った淺瀬川は、室内であるにもかかわらずサングラスをかけていた。
「そこに写真があるでしょ?」
店内の隅を顎でしゃくる。そこには額縁に入った大きな白黒写真が掲げてあった。淺瀬川が、自分よりはるかに大きな力士を今まさに寄り切ろうとしている瞬間の写真だ。相手は史上最多となる三十二回の優勝を誇り、今も「戦後最強の横綱」と讃えられる大鵬だ。
「偶然、右四つになったんだよ。大鵬さんはそんなこと滅多にしないのに、最初、頭をはたいてきた。そうしたら、右(手)がすっと入ったの。たまたまだよ」
右四つとは右で下・・・