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連載

皇室の風 72

園部元最高裁判事の提言
岩井 克己

2014年8月号

 宮殿という公空間に表御座所という〝奥の院〟があり、その地下の密室に鋼鉄製金庫があって、その中に機密を封印した革製金庫があったという話を書いた。

 人間だれしも公の顔と私の顔とはある。しかし天皇は存在そのものが国家機関であり、生身の個人としての言動記録は一部封印せざるをえなかった。

 例えば先の大戦での昭和天皇の戦争責任について近代史家三谷太一郎は次のように総括している。

「一方で立憲君主としての立場を貫くべく努めながら、他方で国際協調主義の立場を守るために、時としては立憲君主の立場を超えて軍部に対して自己主張を試みた。昭和天皇の実際の言動に徴する限り、個人としての天皇に軍部の政策の責任を帰属させることは困難であろう。(略)個人としての天皇は、制度としての天皇の責任をいかに引き受けるべきなのか。それが敗戦後の人間天皇に問われた最も深刻な道義的問題であった」(「昭和期の政治と天皇」『近代日本の戦争と政治』所収)

 そして今、皇室は制度自体が内包していた想定外の危機に直面している。

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