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連載

追想 バテレンの世紀 連載100

タイオワンを巡る思惑
渡辺 京二

2014年7月号

 オランダ東インド会社のバタビヤ政庁では、タイオワンでの紛争が、日本におけるオランダの地位に悪影響を及ぼすのを憂慮して、日本に使節を派遣することにした。任に当たったのはタイオワン長官ピーテル・ノイツだが、彼はアジアに赴任してまだふた月余りにしかならず、日本については経験も知識も皆無だった。

 ノイツに与えられた任務は、タイオワンでの紛争について釈明するとともに、紛争の原因をとり除くために、台湾渡航朱印状の発給をせめて数年なりと取り止めるよう請願することだった。ところが、ノイツ一行が一六二七年八月平戸に入港した数日後、末次船の船長浜田彌兵衛が台湾原住民を率いて長崎に到着したという、驚くべき知らせが彼らの耳に届いた。

 ノイツはタイオワン出発前に、東インド総督の指令に従って、留守を預かるデ・ウィットに、中国に残されている日本船購入の商品をオランダ船で取り寄せ、越年した日本船にそれを積ませて無関税で出港させるよう指示しておいたのだが、デ・ウィットはそれを実行しなかった。

 昨年からじらされ続けた浜田彌兵衛は、ついに中国の残り荷・・・